恋愛事件
とても、とても好きな人。
でも、諦めなければいけない人。
だから私は、告白する。
――潔く、玉砕するために。
◆◆◆
好き。
その言葉は、心に、日常に、意識に、途轍もない革命をもたらす奇跡。
私が久能先輩を好きだと自覚したのは、新学期の始めに集まった生徒会室でにこりと微笑みかけられた時だった。
クラスメイトの陰謀により書記に推薦され、断る間もなく生徒会役員の仲間入りをさせられて途方に暮れていた時だったのだ。
生徒会に興味がなかった私はこれまで一度も役員の経験がなく、要領も仕事内容も全然分からなくて他のメンバーと馴染めずに戸惑ってばかりだった。
初めての会議で終始俯き緊張する私を、さりげなくフォローして笑顔を向けてくれたのが、久能先輩。
勿論、そういう優しい気遣いは私だけに特別向けられたものではない。
久能先輩は副会長なので、会長の水屋先輩をサポートする傍ら、下級生達の面倒も見てくれたというだけに過ぎない。
いつも柔らかく微笑んでいる穏和な久能先輩は、すごく人気があった。背が高くて、端正な顔をしていて、親しみやすい雰囲気を持っていて、頭もいい。人望があり誠実だけれど、ちゃんと遊び心を持っている。こんな凄い人を好きにならないはずがないってくらい、久能先輩はダントツに格好いいのだ。
でも、誰も手を出せない遠い人。
なぜなら――久能先輩の傍にはいつも、会長の水屋先輩がいたためだった。
水屋先輩は、同性でも思わず見蕩れてしまうような美人だ。サラサラの長い髪は奇麗な茶色。背もすらりと高くて、気品ある顔立ちをしている。化粧が必要ないくらいに睫毛が長くて、目もぱっちりとした二重。赤い唇は透明感を含んでいる。月並みな表現だけれど、本当に雑誌から抜け出てきたみたいに、奇麗な人なのだ。
これで水屋先輩が、人目もはばからず久能先輩にまとわりつき甘えるような人であれば、きっと反感を抱かれただろうと思う。ところが水屋先輩は公私混同をするような馬鹿な真似を絶対にしない人だった。才女という言葉がぴたりと当てはまる上、容姿端麗。性格もさっぱりとしていて嫌味がない。責任感もある。ケバくないのに華がある。どの角度から見ても非の打ち所がない人なんだ。
あまりにも二人はお似合いで、更に幼なじみという確固とした関係が誰にも割り込むことを許さない。
無関係の生徒までが名物カップルと羨むくらい有名な二人。
どうしようもないよね。私が好きになった久能先輩は、こんなに最強の恋人がいるんだ。私とは土台からして違う。張り合う気にもならないくらい、何もかも違いすぎる。
二人の世界に入れないって分かっているのに告白するのなんて、凄く馬鹿げていると自分でも強く思う。
玉砕して当然。奇跡が起きる余地もないし。
だからこそ、私は告白して、自分の恋心にきっぱりとけりをつけたいんだ。抱えている恋が重くなりすぎる前に、解放してしまいたい。いつまでも胸の中に秘めていれば、きっと私は潰れてしまう。重症になって恋を穢してしまうくらいなら、いっそ鮮やかに振られて思い切り泣いて、また歩き出したいって思う。
こんな風に考えられるようになるまで、本当、何日も徹夜するくらい悩んだけれどね。
友達も失恋パーティの準備を気合い入れてしてくれるっていうし、アフターケアも万全。
という事情により、私は手作りケーキなんかを持参しつつ、本日の生徒会室に一番乗りしていた。
いつも久能先輩は、誰より早く生徒会室に来ていて、色々と準備しているということは既に確認済みだったから。
でも。
神様は天の邪鬼で。
こんな日に限って、久能先輩は水屋先輩と一緒に現れたんだ。
◇◆◆
――結果。
最悪!
馬鹿!
「死にたいー!」
絶叫して大泣きする私を、友達が苦笑いして見守っていた。
場所はカラオケボックスだったりする。
……勿論、失恋パーティなんだけれど。
一世一代の初告白の顛末、思い出すだけでも怒りと悲しみと惨めさが募ってもうパンク寸前。
「……ま、仕方ないよねえ」
と、友達が溜息混じりに慰めなんだか呆れてるのか分からない呟きを漏らした。
私はマイクを握り締めつつ、唸ったり転がったり行き場のない思いを抱えて悶えているという次第だった。
「そりゃあさぁ、いくらなんでも、会長がいる前で久能先輩を連れ出そうとする方が無謀だよ」
分かってます、分かってますけど、この勢いを逃したらもう絶対告白できないって思ったんだもの!
ケーキも持ってたし。私にしては会心の出来だったし。精一杯お洒落したし。うちの学校、私服、制服通学、どちらでも許可されてるんだ。
だから。
――私。
お馬鹿にも、二人仲良く現れた先輩達に勇気を出して立ち向かって……崩壊した。
「あー、ほら泣かない泣かない」
友達に頭を撫でてもらいながら、頭の中で告白場面を再放送する。
正確にいうと、告白に至る前に、見事潰されたんだ。
あの時の私、震える足を叱咤しつつ、きょとんとする久能先輩に「お話があるんですけれど」なんて言って、別の場所に移動してもらおうと思ったんだよね。
自分の恋人が目の前で連れ出されそうになったら、いくら公私混同をしない水屋先輩であっても心穏やかじゃいられないし、許せないだろう。実際、私、これからいかにも告白します! っていう雰囲気丸出しだったし、御丁寧に奇麗にラッピングされたケーキ持っていたし。
むっとされて、当然。水屋先輩の気持ちを考えなかった私が全面的に悪い。
水屋先輩は敏感に察したんだ。
いつもは優しげな水屋先輩の瞳がすっと細くなって、冷たくなった。ぎょっとするくらいに奇麗で怖い作り笑い。そのままくるっと背を向けて逃走したくなるくらい凄みのある表情だったと思う。
思わず逃げ出しかけた私に、水屋先輩は不自然なほど甘い声で言ったんだ。
『それ、何?』
水屋先輩の目が、私が持つケーキの箱を見つめる。もうこのあたりで気迫負け。
先輩は私に向かって一歩を踏み出し。
間近で見た水屋先輩の目の奥には、嫉妬と苛立ちが仄かに燃えていた。
当たり前だよね、自分の恋人に手出しをされたら、黙ってなんていられないはずだもの。
そして、いくらでも残酷になれるくらい、久能先輩のことが好きなんだと思い知らされた。恋ってきっとそういうものなんだ。体面なんて気にしていられない時もあるってこと。
『何、それ? ケーキ?』
嘲笑うように問われて、私は返事すらできなかった。
『嘘、西田さん、もしかして告白? あ、何、滝生のこと、好きなんだ?』
ひどい、と私は蒼白になった。
自分の口で、好き、って告げる前に、嘲笑と共に暴露されてしまった。
滝生っていうのは、久能先輩の名前。久能滝生がフルネーム。
『えー、本気? 滝生のどこが好きなの。やっぱり顔とか?』
手足が震え出して、吹雪に見舞われたみたいに身体が冷たくなった。
何か言って誤魔化そうと思ったけれど、声が出ない。
久能先輩も驚いた顔で硬直していた。水屋先輩の声が、鳥肌が立つくらい冷ややかだったせいだ。
こんなふうに水屋先輩が豹変する姿、多分、久能先輩も初めて目にしたんだと思う。
水屋先輩は唇を歪めて、笑った。そして、私の手からケーキの箱を取り上げて。
馬鹿にした顔で、しげしげとケーキを眺めていた。
『やだ、手作りなの。っていうか、滝生、甘い物嫌いじゃん』
そう吐き捨てて水屋先輩は――私のケーキを、ゴミ箱にぶち込んだ。
恋までぐちゃぐちゃにされて、捨てられたみたいだった。
流石に久能先輩が顔を強張らせて、ちょっと厳しい口調で水屋先輩を呼んだ。でもその声音は、あくまで行き過ぎた行動を取った恋人を叱るって感じで。
――もう、駄目。
私はそのまま、二人の前から全速力で走り去ることしか出来なかった。
「最低、最悪だー。もー学校行けない。転校する」
「落ち着きなさいって。ね?」
落ち着けないよー。ケーキは捨てられるし水屋先輩には徹底的に嫌われただろうし、何より久能先輩に好きだってこと知られたし。
「目眩がする、頭痛い。明日休む」
持つべきものは、話の分かる友。
耐久レースみたいに真夜中まで、失恋曲を歌いまくった。
◇◇◆
告白の日着ていたワンピースは捨てた。靴も、アクセサリーも。
泣きすぎてひどい顔。でも、もうどうでもいいって感じ。私の人生、暗いし。
私服を選ぶ気力もなくて、重い制服を着込んで、嫌々学校へ行った。
本当は休みたかったけれど、お母さんに思いっきり怒られて、無理矢理家から出されたんだ。
傷心の娘に対して、過酷な仕打ち!
学校へ行った振りして途中で道を変えようかなあと思ったけれど、そんな真似をしたらバイトをやめさせるって脅されて、断念。さすが母親、手抜かりなし。っていうかよく気がついたなあ、娘の思考パターン。
私はずるずると足をひきずるようにして、学校を目指した。
校門前まで辿り着いた時、通学途中の生徒達がなぜか立ち止まっていて、いつもと違う空気が流れていた。
でも今の私には、関係ない。むしろ嵐とか事件とか望むところだった。それで学校が消滅したら言う事なし。
私は深く下を向いたまま、校門を通り抜けようとした。
「西田さん」
聞き覚えのあるような、ないような、低い声が聞こえた。
幻聴かと思って通り過ぎようとしたら、また名字を呼ばれて、仕方なく顔を上げた。
――?
「西田さん」
え? え? え?
私は、ぽかんとした。
……ダレ、コノ人?
頭の中に浮かぶ無数の疑問符。
私の名を呼び、静かに見下ろしている人。
っていうか、誰?
通学途中の生徒達が遠巻きにこっちを見ていた。私を、じゃなくて、この人を。
格好いい、奇麗な顔の人だった。文句なしに。
細身のズボンにシャツ。短い髪の毛が格好よくセットされていて。
身長は、私よりは高いけれど、この年代の男の子の中でいえば、標準くらい。
けれど、びっくりするくらい顔が整っている。ああ、だから皆、足を止めて見ていたんだ――だって、まるで雑誌から抜け出てきたみたいに、完璧で。
――え?
自分の思考が凍り付いた。
この人。
この人って。
「ま、まままままさか……っ!」
「どうしたの、西田さん」
低い声。わざと声を低くしている。
私は絶句し、放心した。
私を見下ろし微笑する、奇麗な人。
私は。
思いっきり指をさして、絶叫した。
「水屋先輩ー!!!」
男装している水屋先輩が、にこりと笑った。
◇◆◆
「で、どういう事。陵」
陵っていうのは、水屋先輩の下の名前。
私の目の前には、ちょっとくらくらするような格好いい人が、二人。……訂正する。格好いい久能先輩と、格好よくなってしまった水屋先輩。
場所は生徒会室。他の役員達が隅の方に固まりつつ、興味津々という顔でこっちを窺っている。
「どうって、何が」
水屋先輩は挑発するような笑みを見せた。
ああ、っていうか水屋先輩、格好が男らしくなったせいか、なんだか言動まで精悍におなりに……。
嘘だ、嘘ですね神様。あんなに奇麗だった長くてサラサラの髪が、他の男子生徒みたいにばっさり短くなって。
「その格好何だよ?」
久能先輩がひどく怒った顔をして、水屋先輩に詰め寄った。
一方水屋先輩は余裕って感じの態度で、行儀悪く机に腰掛けていた。ああああ、私の中の、上品な水屋先輩のイメージが、土砂に巻き込まれて消えていく。
「何のつもりかって聞いているんだよ」
はい、是非私も聞きたいです。
「何のつもりもなにも」
小馬鹿にしたような水屋先輩の微笑。嘘だぁ、あの水屋先輩が、こんな黒い微笑みを見せるなんて……!
「ねえ西田さん」
「は、ははははい!?」
突然水屋先輩に声をかけられて、私は飛び上がった。
「この格好、似合ってないかな?」
私は引きつった。いえ、よく似合ってます。泣きたくなるくらい。
でも、でもその格好、っていうか髪型とか服装とか。
……すごく久能先輩を連想させるんですけれど!
久能先輩も気づいているのか、水屋先輩を見つめる目がとても険しい。
水屋先輩は私達を交互に見比べたあと、溜息を落とした。
「だって、西田さんは」
はい!?
「滝生のこと、好きなんだよね?」
ストレートだと思っていたら変化球を投げられた、みたいな衝撃。
昨日に引き続き、久能先輩の前でまたそのことを言いますか、普通!
じゃあ何だろう、もしかしてその格好って、私に対する最大限の嫌がらせとか?
凄まじいです、私を地獄へ突き落とすためだけに、奇麗な髪を切ったんですか。
「き、気絶するかも……」
と、無意識に私は呟いた。
「あ、介抱してあげようか?」
笑顔で、笑顔で! 水屋先輩がそんな台詞を口にした。
……介、抱?
「陵。一体何なんだよ。昨日からお前、おかしいよ」
「おかしくないじゃん」
じゃん、って水屋先輩!
「おかしいだろ! 何のつもりだ!」
とうとう久能先輩はキレて、怒鳴った。
すると水屋先輩は笑みを消して、真剣な顔で久能先輩を睨んだ。
「――宣戦布告のつもりだけれど?」
私なんか、水屋先輩の相手にもなりませんって!
と絶望したけれど、なぜか、水屋先輩の氷点下の視線は久能先輩を貫いていた。
「……陵」
「何」
久能先輩が青ざめて、戦々恐々って感じで水屋先輩を凝視した。
「お前、まさかと思うけれど……」
「何?」
「宣戦布告の相手って」
埃さえも空中で固まるくらいの痛い沈黙が室内に降りた。
「もしかして……俺、だったりとか?」
誰もが凝固する中、水屋先輩は鮮やかに笑った。
「当たり前じゃん」
――!!!?
今すごい幻聴が、というか嵐が通過したかも、ううん、天使が駆け抜けたとか。
切実な祈りを込めて現実逃避する私と久能先輩へ、更に水屋先輩は追い打ちをかけた。
「だって、西田さんが滝生なんかにケーキ作るから。まさかこんなに早く西田さんが告白するとは思っていなかったし。私が傍にいれば絶対滝生に近づかないって思っていたんだけれどな」
ごめんなさい私、その、ちょっと頭が混乱して……。
「りりり陵……、陵ちゃん……?」
あ、久能先輩も壊れかけてきている。
「滝生、むかつく。西田さんが作ったケーキ、絶対滝生なんかに渡さない。あぁ思い出した。昨日の西田さんはとても可愛い格好をしてたけれど、それって滝生のためだったから、久しぶりにキレたんだよね」
「お、お、お前、陵、早まるな」
「みみ水屋先輩、これは何かのトリックでしょうか」
水屋先輩は格好よく机から降りて、私に笑いかけた。気のせいとか幻覚じゃなければ、かなり甘い微笑のような。
背筋が嫌な具合にぞくぞくしてきたんですけれど。
「ねえ西田さん。これのどこが好き? 顔だけだよ、こいつ」
「陵!?」
「あ、ああああ」
私、崩壊寸前。
「私の方が余程優しいし、成績もいいし、顔も奇麗だし、格好いいよね?」
「えええええ」
「陵、待て、あー! 夢か? 誰か今、俺の現実をデリートしたか?!」
まさかまさかまさか。
「み、水屋先輩……、あの、あの、わわ私の勘違いだと思うんですけれど、というよりむしろそう信じなければいけない気がすごくするんですけれど……!」
いや絶対勘違い、そうじゃなければ悪夢。
「何、西田さん」
「もしかして、先輩、わ、私のこと、好き、とか……」
やっだーもぉー、なわけないじゃぁーん、という返事を私も久能先輩も、心底期待していた。
「うん」
「「「――うん!!!?」」」
私と久能先輩、そして片隅で成り行きを見守っていた役員達の、驚愕の叫びが見事にハモった。
あああありえねえーっ!! と久能先輩の悲痛な叫びがこだました。私の心の中でも、ありえない、という悲鳴が爆発中。
ふらっとよろめく私と久能先輩の前で、水屋先輩は奇麗な目を伏せ、はにかんだ。
「陵……! やめろ、お前、今、間違いなく恋する顔でそんな、分かった俺の時間はエイプリルフールだ」
久能先輩、言っている事が支離滅裂です。
「好き」
と、水屋先輩が、そう! 私を見て、好きと!!
嘘だとはとても思えないほど、あまりに情熱的な水屋先輩の視線が痛い。顔が整っている分、効果抜群。昨日までのクールビューティな水屋先輩は一体どこへ行ってしまったのか、いえ、昨日までは私の恋敵であった人が、なぜ、なぜ!
水屋先輩に何が憑依したんですか。その前に、久能先輩と付き合っているんじゃなかったんですか。
「あの、水屋先輩、私の記憶違いでなければ、久能先輩と順調なお付き合いをされているのではなかったのでありましょうか」
私の言葉遣いも既に乱れていた。心はもっと荒れ狂っていたけれど。
「滝生と、私が?」
水屋先輩は超絶に凍える目をして、美しく笑った。ああ暴君の君臨、なんて馬鹿なことを私は思った。
「これとはただの幼なじみ。というか可愛い西田さんが目の前にいるのに、他の人とは付き合わない。まあ、西田さんが滝生を好きだって気づいてからは、わざと滝生につきまとったけれど」
意識が灰色に霞んでいきます、先輩……。
「陵、戻ってこい! いいかお前は女だ。ほらよく見ろ、西田も女だ。ばっちり、ガール。少女。女。な?」
「うん、可愛いよね西田さんはいつ見ても。一目惚れは永遠の輝き」
「一目惚れをダイヤの輝きみたいに言うな!……って、そこじゃないだろ問題は! 女同士だろ、色々と悩むことがあるじゃないか」
「だから何?」
「だ、だから!?」
「分かってるけれど? 女だから、すごい不利なの知っているけれど?」
それでもしかして、昨日告白を邪魔したりケーキを投げたり、男装したり久能先輩の格好を真似したりとか。
ミラクルです、先輩。
「待て陵。そうだ俺はきっと誤解している。つまりあれだな? 思春期にありがちな女同士の微妙な友情の一環として」
「違う。恋愛」
「れ……っ」
「具体的に言えば性行為を前提とした心と身体の特別な付き合いであり、独占欲と執着それらを伴う二人だけの秘密の日々を過ごしたいわけで、要約すれば『愛してます』の一言に」
「わー! やめろやめろ! 聞きたくない知りたくない覚えたくない!」
「自分が聞いたくせに」
「答えるな。考えを改めろ!」
「私だって色々考えている。できるなら少しずつ西田さんの意識を変えようと思ってたんだけどね」
「俺の中で宇宙戦争が始まった……。頼む誰かブラックジャックを呼んで、陵の意識を手術してくれ」
「あ、ブラックジャックがいたらいいな。もし西田さんが女は駄目っていうなら性転換もありだね。私、誰よりも格好よくなる自信あるし」
「馬鹿っ、ブラックジャックはやたら法外な金を要求するんだぞ」
「私がその程度のお金、稼げないとでも?」
黒い、水屋先輩の笑顔が闇夜のように黒いです!
水屋先輩は、ぽん、と久能先輩の肩を叩いた。
「西田さんは私のものだから手を出すとコロス」
久能先輩は床に倒れて真っ白に燃え尽きた……。
「というわけで西田さん」
と水屋先輩が、実に爽やかな表情で私の前に立った。
「悪いけれど滝生は諦めてね」
「ひぃ……!」
「浮気したら、相手の男は地球の底に埋めるよ。軽く切腹させたあとに」
「ぐふっ」
「とりあえず、ここは健全に手を繋ぐところから始める?」
「……!?」
「私としては順番を吹っ飛ばしてその先に進んでも、一向に構わないというかむしろ嬉しいくらいかなあ」
私、今すぐ魂を飛ばしていいですか……。
◇◆◆
私の恋は玉砕した。
ついでに日常も崩壊した。
何しろ、たった一日で全校に広がった衝撃の告白の前には、私の恋など遥か彼方。
あぁ水屋先輩……あなたという人を激しく誤解していました。
私の明日がどうなるのか、恐ろしいです、先輩。
●END●
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