暗翼船の月下石・後編

 さすがはガルシアの側近達、強豪揃いと言っていいほど見事に強い。ゾイは剣士の模範となるような的確な動作で剣を振るっていたし、ジェルドは野性の獣めいた法則性のない攻撃を嬉々として繰り出している。戦闘好きに違いないとは薄々感じていたが、水を得た魚のように生き生きと戦うとは。
 ヴィーはまたも後尾について、拳法家のように俊敏な動きで幽霊くん達を蹴り飛ばしていた。ジェルドとは違う意味でしなやかな動作だった。
 ガルシアは笹良を抱えていたため、率先して戦いに参加しようとはしなかった。時々、ゾイ達の脇をうまくすり抜けて接近する悪意塗れの幽霊くんを、蠅を叩き落とすように片手で薙ぎ払っていた。
 ああやっぱりガルシアが一番強くて無敵なのだ。目を見張るほどゾイ達が強くても、海賊王との称号を与えられたガルシアは更に上をいくのだろう。
「このままだと、無事には脱出できぬかもしれぬなあ」
 ガルシアの声は何の焦りも窺わせず穏やかだったが、紡がれた言葉の内容はとんでもなく不吉だった。
 そういえば、倒しても倒しても幽霊くん達はしつこく復活するし、数もやたらと増えてきている。いくらゾイ達が屈強な海賊であっても、数で押されれば当然対処しきれなくなる。
 何でこうも不気味な幽霊くん達がわさわさっと出現して襲ってくるのだ!
「お前が抱えている月下石を、死守しようとしているのだな」
 な、何っ?
「言ったはずだな、月下石は誰にも掴めぬ宝だと。みだりに強奪しようとすれば船に宿る霊達が騒ぎ出すのさ。ゆえに、宝を手中にし生きて帰る者はいない。皆、途中で諦めるのさ」
 それを早く言って欲しい!
「王!」
 さすがにヴィーが焦燥を滲ませた声でガルシアを呼んだ。いよいよ、集団で迫り来る幽霊くん達に押され始めたのだ。
 通路はそれほど幅があるわけでなく、剣を大きく振り回せないという難点がある。ヴィーのように体術で応戦するならまだしも、剣を扱うゾイとジェルドには圧倒的に不利な場所なのだ。
「ササラ、離れるなよ」
 ガルシアはそう言ったあと、狼狽する笹良を床に降ろした。ガルシアまでもが戦いに参加しなきゃならないほど、幽霊くん達の襲撃が激しさを増したのだ。
 わ、わ、わ!
 ガルシアは場所を考慮して、長剣ではなく短剣で応戦する方法を選択していた。ひらりひらりと閃く短剣は正確に敵を斬り捨てていたが、死者は二度も死なないのだ。ほら、また蘇生している!
「ひゃっ?」
 硬直する笹良の腕を、幽霊の一人が馬鹿力で掴んだ。な、なぜ実体がないのに触れるのだ!
「冥華! ぼさっとせずに抵抗しろ!」
 ちょうど側で戦っていたゾイが舌打ち混じりに叱責して、笹良を引きずり倒そうとしていた幽霊くんを勢いよく蹴り飛ばした。
「ヴィー、ササラを連れて先に行け」
 ガルシアがいきなり笹良の腰を引っ掴んで、ぽいっとボールのようにヴィーへ向かって投げた。一瞬、笹良はこの扱いに不満を抱いた。何て乱暴な扱いなのだっ。
 ヴィーはちゃんとキャッチしてくれたけれど。
 しかし、先に行けと言っても前方にだって怒りの気配を漂わせる幽霊くん達がうようよとひしめいているのだ。無茶だぞ。
 どうするのだろうとはらはらした時、ヴィーが包む込むように笹良の頭を抱きかかえた。うわっ?
 突然――前方で凄まじい爆発音が響いた。
 何だ!?
 驚愕してごそごそとヴィーの腕から顔を上げると、ガルシアが何かを通路へ向かって投げていた。爆薬でも隠し持っていたのか?
「行け」
 短い指示にヴィーは目で頷いたあと、笹良を抱え直して、蘇生を果たそうとする幽霊くん達の間を一直線に駆け出した。通路が吹き飛ばされたため、視界を遮断するほど白い煙や木屑が舞い上がっていた。
「ヴィー!」
「喋るな!」
 名前を呼んだだけなのに、怒られた。
 でも、残されたガルシア達はどうなるのだ。
「ヴィーっ」
 ヴィーは笹良の呼びかけを無視して一気に通路を駆け抜け、ついでに襲ってくる幽霊くん達を蹴飛ばし、上部へ続く階段を上がり甲板へと向かった。そこにも一体どこから湧いて出たのかとおののくほどの幽霊くんが待機していた。
 ヴィーの息は荒かったけれど、敵を見据える瞳は輝きを失っていない。
「ヴィー」
「黙っていろ」
 でも! こ、この船、変な音を立ててますけれど!
 たとえるならば、地鳴りのような。
 まさかと思うが、冗談だと思うが、この船、崩壊しかけてないかヴィー。
 それってやはり先程ガルシアが投げた爆弾みたいなのが原因じゃないだろうか。
 笹良の推理は、当たってほしくないのに的中した。船の中心が、鼓膜がおかしくなるくらいばりばりという大音量の葬送曲を奏でつつ、真っ二つに割れたのだ。タイタニックの二の舞か!?
 激しく揺れる床の上を幽霊くん達がぼたぼたぼたっと転がり、 渦巻く海へと落下していく。
 などと悠長に観察している場合じゃない。笹良達も危険なのだった。もうマストは倒れてくるわ、旗は落ちてくるわ盛り上がった床の板が飛んでくるわで、大惨劇といった有様だった。舞い上がる埃はまるで竜巻のように渦巻き、船付近の海水を大きく乱す。
「掴まれ、冥華」
 わっ。笹良は片腕で宝箱を抱え、もう一方の腕でヴィーの脇腹を掴んだ。
 ヴィーは亀裂が走る甲板の上を器用に走り、海賊船へと繋がる命綱のロープを掴んだ。
 その時になってようやく、ガルシア達が船の上部へと続く階段から姿を見せた。
 でも。
 背後から押し寄せる幽霊くん達が進行を阻むために、こちらへ戻れないようなのだ。
 このままだとガルシア達は船もろとも海の底へ沈んでしまう。
「ヴィー!」
 あれ、あれっ、と笹良はガルシア達を指差した。助けないと!
「駄目だ」
 え?
「王の命令だ。お前を連れていけと」
 その笹良が、王様達に助力してあげてって頼んでいるのだ!
「駄目だと言っている」
 嫌っ!
 笹良は首を振った。
「ガルシア!」
 大声で呼ぶと、幽霊くんの首を斬り落としていたガルシアが、一瞬こちらを見た。ふっと笑うように細くなる目。
「ううーっ」
「冥華! 我が儘も大概にしろ!」
 我が儘。
 笹良の我が儘で、こんなことに。
 笹良は瞬いた。ことんと胸の底に落ちるヴィーの言葉。それは茨で包まれていて、心の膜をざらざらと傷つけた。自業自得の痛みだ。笹良が災難を招いてしまった。
 骸骨船の手すりにしがみついて離れない笹良を、ヴィーが苛立ちをこめた表情を浮かべて、引き剥がそうとした。
 こんなこと。
 笹良は抱えていた宝箱を見つめた。
 こんなもの。
「――ええーいっ!」
「……馬鹿、冥華!」
 逆上した笹良は――宝箱を、幽霊くんの一人に向かって投げつけた。
 すると。
 
 ――幽霊くん達が一瞬で、奇麗に消滅したのだ。
 
「冥華、来い!」
 ぽかんとする笹良を担ぎ上げたヴィーが、素早くロープを掴んで空中へ身を踊らせた。
 ぎゃー! と笹良は叫んだ。宙づりになっている!
 と恐怖を抱いたのは束の間のことだった。遠心力の法則に従い、ロープを掴むヴィーと笹良は弧を描いて海賊船に着陸した。
 勢いを殺せず前のめりになった笹良がべしゃりと海賊船の床に張りつくと同時に、まるで大怪獣の断末魔のような凄まじい崩壊音が響き渡った。立ち上がりかけていたヴィーに飛びつき、戦々恐々と振り向くと、先程まで笹良達が探検していた骸骨船が、逆巻く海流に飲み込まれてずぶずぶと沈んでいく光景が目に映った。
 笹良に飛びつかれて体勢を崩したヴィーは一瞬剣呑な目をしたが、すぐに沈没する骸骨船へと顔を向けた。少し険しい横顔を見せるヴィーの袖を、恐る恐る引っ張った。
「ヴィー?」
 ねえ、ガルシア達は?
 ヴィーはちらっと笹良へ視線を投げてきた。
「ガルシアー」
 不安になって、ぽそっとガルシアを呼んだが、返事はない。あっという間に骸骨船は海の底に飲まれて見えなくなった。不可思議な現象だったが、骸骨船の周囲の海水だけがひどく荒れ狂っていたので、海賊船の方は何の被害も受けていなかった。
 いっそ不気味な静けさが舞い戻ってきて、息苦しくなる。張りつめた静寂に怯えた笹良はおどおどとヴィーの袖を握りしめた。
「ヴィー」
「仕方ないな」
 何が仕方ないの?
 ヴィーは冷淡な口調で、どうしようもないな、と告げた。何。何がどうしようもないの。
「冥華、お前が言い出したことだろう」
 冷然としたヴィーの態度が、笹良を傷つけた。そうだけれど、でも。
「反省しな、我が儘お姫様」
 ふえ、と笹良は涙を浮かべた。ヴィーは片眉をひそめて、笹良を見下ろした。
「ガルシア……」
 ガルシア達、皆、骸骨船と一緒に沈んでしまったのだろうか。どうしよう。
 暴君だし意地悪だし変なことばかり言ってすぐにからかってくるけれど、宝石と引き換えに死なせたかったわけじゃないのに。だって時々は本当に優しいのだから。
 ジェルドも微妙に変態だけど海の底に突き落としたいほど憎々しいってわけじゃないし、ゾイは全体の九割くらい無情な奴だけど、残り一割の部分で本当に困った時は助け舟を出してくれるし。
「ふ」
 笹良は震える息を吐き出した。ふ? とヴィーが怪訝そうな顔をした。
 ふえええええ、と笹良は盛大に泣いた。ついでにヴィーの服をぎゅっと引っ張りつつ。
 ヴィーは一瞬、ぎょっとした顔になり、うずくまって泣く笹良を見つめた。
 宝が欲しいなんて馬鹿なこと、言わなければよかった。少し髪を切られたくらいで、仕返ししようなどと考えたのが悪い。髪などすぐに伸びるのだし、痛みも恐怖も伴わないのだ。その程度のことで目くじらを立てた自分の短慮さが憎い。もし時間を戻せたら、ジェルドが切り落とした笹良の髪を、人骨で作ったおぞましいオブジェの装飾に使おうとしていたという驚異の事実も、笑って許すのに。もういっそ海に飛び込んでしまいたい。
「あのな、冥華……」
 いささか引きつりながらヴィーが笹良の頭に手を置いた時。
「ヴィー、あまりササラを泣かせるな」
 笑い含みの聞き慣れた声が、響いた。
 身軽な動作で、海賊船の手すりによじのぼるガルシア達の姿が、あったのだ。
 あ、ああっ!
 笹良はぱくぱくと口を動かした。
 溺れていなかったのか!
「泣かせすぎると、涙で船を沈められるぞ」
 そんな軽口を叩く海賊王は、全身びしょ濡れだった。
 沈没する骸骨船から放り出されたガルシア達は、どうやら海賊船まで泳いできたらしかった。
 ジェルドとゾイが手すりに腕を置き、ひらっと飛び越えて甲板に降り立った。……ジェルド、どさくさに紛れて、あの頭蓋骨をちゃんと盗んできたんだな。
「なかなか愉快だったな」
 ガルシアはまだ船の外側に造り付けられた出っ張りに足をかけていて、こっちに戻ってこようとしなかった。手すりに軽く片腕を絡ませ、面白そうな顔で月明かりに照らされた海面へ視線を向けた。
 暗い海は月の光を反射させつつ、穏やかに揺れていた。
 ガルシアは微笑し、雫を滴らせる髪をかきあげたあと、手すりに肘を置いて、頬杖をついた。
 そ、そんな危ない場所でくつろぐんじゃないっ。また海に落ちるじゃないか!
 笹良はよろよろっとガルシアに近づいた。
「ガルシアぁ」
「お前、折角の月下石を拝む前に、暗翼船に戻してしまったな」
 いいのだ。もうそれは見なくとも。
 幻は幻で、いいのだ。
「まさか、あそこで月下石を放り投げるとは」
 くすりとガルシアが笑った。早くこっちに上がってきなさい!
 大体、もし石を戻していなかったら、幽霊海賊くん達は消滅しなかっただろう。
「お前の行動は、型破りだな」
 笹良はぼろぼろと涙を零しつつも、ガルシアの髪を両手で引っ張った。
「また泣いているな」
 うるさい。これは、きっと……そうだ、石が手に入らなかった悔しさで涙が出るのだ。ガルシア達のために泣いているわけじゃない、絶対に。くそ、心配させてっ。
 でもさ。
 ごめんね。
 笹良は日本語でぽそぽそと謝りながら、ガルシアの濡れた頭に頬を寄せた。うう、よかった、生きている。
「なぜ月下石を求める者が生きて戻れぬか、分かるか?」
 幽霊海賊くんに襲われるからだろう。
「皆、月下石まで辿り着くことはできるのさ。だが、帰り道で阻まれる。宝を惜しむあまり、命を惜しむことを忘れる。一度は手中にした宝を手放せる者は、少ない」
 でもガルシア、そんなことは問題じゃないのだ。もともと乗り気じゃなかったガルシアを、笹良が軽はずみな思いつきで振り回そうとしたということが、何よりの過ちなのだ。
「ササラ」
 今回ばかりは深々と反省する笹良に、ガルシアが何やら企みがちな声をかけてきた。
 ガルシア、お説教する前に、ちゃんとこっちへ上がってきてほしい。
 海底に落下されては困るので、笹良は両腕をガルシアの首に巻き付けた。ガルシアは少し目を伏せて微笑し、笹良を片腕で抱え上げると同時に身を捻って手すりを乗り越え、その上に腰掛けた。実に不安定かつ危険な体勢だ。手すりの幅は十センチほどしかないのに。
 ぎゃっ、危ないじゃないか、揺れたらガルシアにしがみつく笹良まで真っ暗な海へ落下する。
 銀盤めいた月の光を浴びながらガルシアは猫のように目を細めた。
 青い髪がきらきらと月光を弾いている。
「ふふ、よく泣く冥界の女神様だ」
 違う違う、そんなけったいな女神になった覚えはないぞ。
「なあ、ササラ」
 何さ。
 ガルシアはするりと笹良の耳に唇を寄せた。
「俺も月下石を手に入れようとした時があるのさ。だが、もう興味は失せた」
 飽きっぽいな、海賊王。
「俺は既に、幻の宝石を手中にしていると思わぬか?」
 全身水浸しのガルシアを、笹良は眺めた。不思議な石を連ねたピアスや首飾り、腕輪など、きっと売り飛ばしたら高値がつくのだろう宝石が、鈍い輝きを見せていた。
「俺にとっては――そうだな。ササラ、お前こそが稀なる秘宝」
 ……何?
 笹良は胡乱な目でガルシアを見返した。ガルシアは笹良の髪に指を絡ませ、もう一度耳元へ唇を近づけてきた。
「涙を落とす比類なき宝石さ」
 何だ、その嘘臭く寒いお言葉はっ。悪寒というか戦慄が!
 海に落ちた衝撃で、頭の一部が破損したのか? というか、耳元でそういうお馬鹿な台詞をつらっと囁くんじゃない!
 海賊王、鳥肌ものの台詞、いやに言い慣れてないか。貞節とか羞恥心とか慎ましさとかは一体どこに置いてきたのだ。
「愛らしくも我が儘な、俺の宝石。――おや、なぜ不満そうな顔をするのだろうな」
 当たり前だ。
 変なことを皆の前で言うのは禁止だ。
「ササラ――目元が、赤い」
 馬鹿ー!! と笹良は絶叫した。
 ガルシアは僅かに瞠目して、微妙に身体を揺らした。お、落ちる、ちゃんと支えなさい!
 ふふっとガルシアは笑った。もう嫌だ、この破廉恥海賊王め。
 ご立腹した笹良は、離せっ、と身をよじった。いつまでも抱きついていたら笹良の服まで濡れるじゃないか。
「そう恥じらわずに」
 誰がだ! そっちこそ少しは謙虚さを身につけてほしい。
 きっ、と睨みつけると、ガルシアは肩を震わせて笑った。不思議な色彩を持つ瞳が長い睫毛に彩られて煌めいていた。
 どうして笹良がからかわれなくてはならないのだ。理不尽すぎる。不公平だ。
 ――けれども、何だか、恥ずかしいほどガルシアが格好いい奴に見えた。
 月に魔力があるなら、目が離せなくなるような、そんな魔法がかけられたのかもしれなかった。
 ガルシアは視線を外さずに、笹良の髪に絡ませていた指をするりと耳へと移動させた。
「……王、そろそろこちらへ」
 ヴィーの苦々しい声で笹良は我に返り、慌ててガルシアの腕から抜け出した。その拍子にぐらっと背中から床に衝突しかけたけれど、近くに立っていたヴィーに支えられて、一安心。
 ガルシアは苦笑したあと、ようやく安全な甲板の上に降り立った。ゾイが横に来て、ガルシアにタオルっぽい布を差し出す。
「ああ、ほら、ササラ」
 布で髪を拭いていたガルシアが、ふと海を指差した。
 そちらへ視線を向けると――海の向こうには、沈没したはずの骸骨船が、薄く揺らめきながら穏やかな波の上を漂っていた。
 そうか。
 骸骨船は侵入者が現れる度、何度も沈み、そうしてまた蘇って航海を繰り返すに違いない。
 笹良は、夜の彼方へ消え行く骸骨船を、ぼうっと見送った。
 
*****
 
 一応、今回は笹良が悪いので、危険に巻き込まれたガルシアの側近達にお礼をしておこう。
 というわけで次の日、皆に一つずつ、林檎の皮を剥いてあげた。
 うん、笹良、林檎の皮むき、上達したな。
 ゾイとヴィーには、明らかに「下手くそな……」という目で失笑されたけれどさ。失敬だな。
 ジェルドは皮むきのコツを教えてくれた。人間の皮膚を剥がすのと大差ない、というえらく気色悪い解説の仕方だったので全く参考にならなかったが。
 ガルシアは。
 
 うん。
 
 その夜、笹良の枕元に、一枚の皿に乗せられた林檎が一つ、置かれていた。
 はぐはぐと齧ってみると、不思議、不思議!
 林檎の中には種のかわりに、奇麗な碧の石をつけたペンダントが埋め込まれていたのだ。
 ガルシア、なかなか乙女のツボを心得ている。手慣れているとも言えるが。
 しかし、どうやって林檎の中に入れたのかな。
 きらきらと輝くペンダントを眺めつつ、月下石もこんな感じで奇麗だったのかな、と笹良は考えた。
 きっとね。

★END★



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