TEMPEST GIRLS:01

――物語には、物語が始まるための理由があったりするものだ。
 
 
 建物も空も人もそろそろ眠りにつこうかという夜、とある一軒家の門前で、二人の男女……いや、男同士と言っていいのか……が、不毛な言い争いを繰り広げていた。
 えてして物語とは、こういう平和な会話から幕を開けるのかもしれない。
 
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「いけません」
「うっ……」
「部屋に戻りなさい」
「ですが、セフォー」
「リスカさん」
「はい」
「部屋に、戻りなさい」
「ああああの、しかし、約束をしているので」
「約、束?」
「ひ……! は、はい」
「リスカ」
「ひぇ」
「どちらですか」
「は?」
「私と」
「は」
「その約束」
「はあ」
「どちらが、大事と?」
「セフォー、それはある意味、究極の選択……っ、いえ! 何でもありません!」
「リスカさん」
「ひ」
「性別を変えれば安全だというものではないのです」
「しかし」
「あなたは自覚が足りない」
「そんなことはありま……」
「目を逸らさずに」
「う、く」
「性別を変え、夜中に抜け出そうとするほど、酒が好きですか」
「いいいいえ、そうではなく、以前、お世話になった方に誘われたので」
「世話?」
「はいっ」
「あなたは――」
「ぐぐ」
「世話になって、誘われれば、夜中でもついていくのですか」
「そんな言い方はひどっ……いえ、独り言です!」
「どちらです」
「え?」
「その者の性は」
「性? ええと、男性、ですが」
「……」
「セセセセセフォー!! 瞬殺いえ排除だけはどうかおやめくださっ……」
「許せません」
「ひええええっ」
「来なさい」
「あ、ああああ、監禁だけはどうか……!!」
 
 
 途中から、かの最強いや最凶の伝説的剣術師である死神閣下の怒りが微妙に別の方向へずれたが、氷点下の温度で続いていたこの言い争い、勿論……勝利したのは、いわずもがな。



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