TEMPEST GIRLS:01

 ――物語には、物語が始まるための理由があったりするものだ。
 
  
 建物も空も人もそろそろ眠りにつこうかという夜、とある一軒家の門前で、二人の男女……いや、兄妹が不毛な言い争いを繰り広げていた。
 えてして物語とは、こういう平和な会話から幕を開けるのかもしれない。
 
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「ううっ、悪魔! 悪魔だっ」
「悪魔? 自分の無責任さと馬鹿さ加減を棚に上げて事実をねじ曲げた上、ありきたりかつ幼稚な現実味のない台詞で他人を堂々と非難するとは、本当に都合のいい性格をしているな。その無知からくる愚かさが羨ましくてならないよ、笹良。再教育のしがいがあるだろうな。世の中の教師という教師はお前のような、反省と成長が見えない浅薄な奴のために存在するんだろう」
「ひどい!」
「酷い? 親切にも忠告してやった心優しき品行方正な兄に対して、自分の過ちを振り返ることなく、よくもそう非情に罵れるものだ」
「罵っているのそっちじゃん。笹良が口で勝てないの知ってて、すげえ理屈っぽく責めてるじゃん」
「理屈か、この程度の言葉をお前の軽い頭は理屈と解釈するのか? 馬鹿だな、今の台詞は理屈じゃなくて事実を極めて客観的に考察した上での単なる侮蔑だ、侮蔑。俺は本気でお前の単細胞な頭に憧れる。ああ、だが、一応はそのミラクルな頭でも気がついたんだな、口では勝てないと。当たり前だ、わざわざ比較するまでもなく、お前とは遥かに頭の出来が違う。大体、俺を言い負かそうと一瞬でも企むこと自体が何より不遜だし不敬だ」
「嫌いだ! 総司なんて、意地悪で嫌いだ」
「はっ、お前はどこの幼稚園児だ。文法も脈絡も方向性もてんで無視した自分の馬鹿一直線な主張が通用しないからといって、今度は感情的な救い難い言葉で兄を糾弾するわけか? その前に、誰が俺を呼び捨てにしていいと許した。総理大臣が承諾したのか? 大統領が許可したのか? 俺を呼び捨てにしたかったら、全人類の許可を取れ」
「うううう」
「馬・鹿」
「馬鹿じゃない!」
「馬鹿というんだ、真夜中に家を抜け出してほいほい遊びに行こうとする素行の悪いガキのことを」
「自分だって、夜遊びしているじゃん!」
「最・大・級の馬鹿だな。憐憫の情すら湧くよ。俺は成人しているんだ。一方、お前は容姿もどう見たってガキそのもので、実年齢も義務教育過程にある未成年だろう。精神年齢は見た目以下だが」
「だって、成人していたって、まだ学生じゃんか。そういうのを扶養家族っていうんだ!」
「あまりの言葉の酷さに、涙が出てくるな。いいか、俺は学業もおろそかにしていないし、それなりに収入も得て、家にいくらか金を入れている」
「え、バイトしてるの?」
「……そんな話はどうでもいい。早く自室に戻れ」
「あっ、誤魔化したな!」
「いい加減にしろ。これ以上喚くと、ベッドに縛り付けるぞ」
「変態!」
「……笹良、ここで新聞のトップを飾るような快楽殺人、発生させてやろうか」
「冗談じゃん!」
「ガキはとっとと寝ろ」
「約束しちゃったもん、響ちゃんと」
「無視しろ」
「駄目、これからがシンデレラタイムで、『Randia』が一番盛り上がる時っ……あう」
「――この不良娘め、ガキの分際でパーティに行くつもりだったのか!? 千年早い!」
「千年経ったら死んでるじゃん」
「うるさい! ませガキ」
「皆、行ってるじゃんかっ」
「ほう、皆が行っているから自分もいいというのか。なら、皆が犯罪に手を染めればお前も倣うのか。大体――何だそのふしだらな格好は!? ガキのくせにミニスカはくな、丈が短い、肩を出すな!」
「いいじゃん別に。今年流行のスカートだもん」
「『Randia』には男だってごろごろいるだろうが。誰に見せる気だ笹良。脚と肩、露出し過ぎだ!」
「じじ臭っ」
「言ったな」
「ぎゃあっごめんなさい!!――嫌ーっ、離せ変態、降ろして、嫌、拉致される、誘拐犯!」
「……監禁してやる、一週間ほど」
 
 
 途中から違う方向へ進みつつも、妙に白熱した言い争い、勿論お兄様が勝利した。



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