F37

 私は恐る恐る符針に手を伸ばした。
 神官しか手に取れないという話だったので緊張したけれど、シルヴァイ達にもらった力が働いているのか、掴んだ瞬間にぼろぼろと崩れることはなかった。
 安堵の溜息を落とし、すぐに顔をしかめる。石版に記されている陣を左右逆に覚えて、床の輪に書かなければいけない。
 でもこの陣、かなり細かい模様だ。記憶力が優れているとは言えない自分が恨めしい。何度も見直して書くとなれば、最低でも一時間以上かかりそう。左右逆というのがかなりネックだ。
「私が書ければいいのですが……」
 躊躇いがちにリュイが呟いた。もしかしてリュイは、この陣を正確に記憶して尚かつ左右逆の図を頭の中に描けるんだろうか。リュイって頭良さそうだ。是非交代してほしいところだけれど、神官みたいな力を持っていないリュイは、符針を手にすることができない。こういう図は、口で説明されても描けないし。
 項垂れる私を見て哀れに思ったのか、リュイがなぜか声をひそめて言った。
「褒められた方法ではありませんが、何かに書き写して……」
 私は顔を上げた。書き写すのは大丈夫なの?
 少し光明が見えた気がした。リュイの説明によると、陣に敬意を払うという意味で、本来は書き写してはならないらしい。しかし、規制を設けたあと、今の私と同様に、緊急時使用するものなのにこれではあまりにも時間がかかると抗議した人が神官達の中にもいたんだって。ということで、反則業。この符針で描いた場合は、それが練習であっても使用したと見なされ陣の図が変化するけれど、法具ではない筆で別紙に書き写すのは目こぼししてくれるらしい。この反則業は、神官達と、一部の身分が高い人しか知らないそうだ。一般には、たとえどんな筆でも一度描けば陣は変わると公表されているのだとか。ううん、裏話だ。どんなことにでも抜け道みたいのが作られるんだなあ。
 と、感心したあとに気づいた。この話を知っているということは、やっぱりリュイって、騎士の中でもかなり偉い方なんじゃないだろうか。時間のある時にきいてみよう。
 紙と筆を探しに行こうとするリュイを引き止めた。
 この世界の紙って、残念だけれど厚めなんだよね。だからトレースができない。
 そこで閃いた奥の手。最終兵器を持っているんだ。
 持つべきものは、日本製筆記用具だよね。
 私は意気揚々と日本から持ち込んだ自分のバッグを探り、誇らしげに手帳を取り出した。
 ここで活躍するのは、手帳のメモ用紙じゃない。
 そう、クリアファイルだ。
 透明なので、ばっちり敷き写しできる。更に、裏返して見れば、左右逆の問題も解決。
 ちょうどいいことに、手帳に挟んでいるボールペンの一つは油性なんだ。ほんと、どこで何が役に立つか分からない。ごちゃごちゃ色々な物をバッグに入れておいて、心底よかったと思う。
 手帳からクリアファイルの一つを外し、それを開く。石版に記されている陣の方が大きいので、二枚必要だと分かり、もう一つクリアファイルを外した。
 リュイの驚いた視線を浴びつつ、私はもう一度しみじみと感嘆した。まさか、手帳のクリアファイルがこういう場面で必要になるとは思わなかった。日本製品って、優秀だ。
 なんていうか、微妙にセコイ作業だと少し情けない思いを抱いてしまった。たとえるなら、テスト時にカンニングしている感じ。
 石版の陣に開いたファイルを押し当て、ずれないよう端の方をリュイに支えてもらい、ボールペンで敷き写しに勤しんだ。ちょっとリュイの視線がツライ。
 ここまでは調子良く進んだと思う。いささか図に乗ったのが悪かったのか、ファイルに写した陣を裏返して眺めつつ、いざ床の輪に描こうとした時、次の難題が到来した。
 書き順だ。
 簡単そうな所を見つけて適当に描いていこうとしたら、エルに「待った」という様子で腕に尻尾を巻かれた。
 そういえば、シルヴァイ達が色々と魔術や魔法について講釈してくれたんだった。まさか、書き順も決められているとは思わなかったよ。
 もう、魔術とか魔法って手間がかかりすぎ! もっと便利なものかと思っていた。
 こんなに面倒な転移の術、本当に使われていたんだろうかと少し腹を立てたんだけれど、リュイの説明によると結構重宝されていたらしい。たとえば、その町で大きな事件が発生し、要人の安全を確保するためすぐにでも移動しなければいけない時、またどうしても別地へ早急に届けなければいけない貴重品がある時とか。そのため、各地の神殿や大きな町には転移の法具が必ずといっていいほど常備されているんだって。
 言われてみれば、そうかと納得できた。難解に思えるこの陣も、転移に慣れた神官なら、コツを掴めばそれほど時間を浪費しなくてもいいだろうし。私が面倒だと感じてしまうのは、今まですごく便利な物に囲まれて生きてきたためかもしれない。自転車、自動車、バス、電車、新幹線、移動方法がたくさんあった。こういうふうにペンで敷き写ししなくても、コピー機やカメラ、パソコンで処理することができた。エヴリールは、日本と違う。その事実をちゃんと、理解しなきゃいけない。
 気持ちを落ち着けて、符針を握る。どんなに急いでいても、短気になっちゃ駄目なんだ。一つ一つ、こなしていけば必ずできるよね。
 うん、エルがいてくれて良かった。書き順なんて、私には分からない。けれど、さすが神の獣であるエルは、陣の記号の順序を知っていたんだ。言葉を話せないかわり、「まずはここから」というように、ぴたっと前足を床につけてくれる。エルの指示に従って、私は床に符針を走らせた。間違ってしまいそうになると、すかさずエルは尻尾を使って私の手をとめてくれる。どうやら、一度でも間違ってしまうと、アウトらしいんだ。偉い、エル。私、一人じゃなくて本当によかった。こうして、皆で力を合わせることができるのって、すごいね。
 欲を言えば、エルに符針を持って書いてもらいたいくらいだったけれど、それは無理だ。
 リュイにランプを掲げてもらい、ゆっくりと丁寧に記号を書いていく。私はあまり絵を描くのが得意じゃないので、慎重に。
 描くうちに、何となく法則みたいなのが見えてきた。まずは中心から記号を埋めていく。その外側をぐるりと一周するように描いたあと、今度は反対まわりに埋める。その次は、ちょっと目立つ記号を、等間隔で描く。また一周するように模様のような、判のような記号を描き――。
 描きながら、ふと疑問に思ったんだけれど、この転移の陣は魔法によるものかな、魔術なのかな?
 陣を描くというところは魔術っぽい。けれど、法則性がある点は、魔法っぽい。もしかして、その二つが混ざっているのだろうか。
 そういえばフォーチュンは魔術も魔法も全て修めているんだった。ただ念じるだけで、力を動かせるのだと。
 どれだけフォーチュンの才が卓越しているのか、こうして今、陣を描いたことで初めて理解した。こういう手間を一切省いて、頭に描いただけで望みを叶えられるんだ。その巨大な力が、もう一人の後継者に注がれてしまった。
 私はフォーチュンに選ばれなかったけれど、神様達に祝福をもらえた。まだ魔法や魔術に馴染みがなく、本音を明かせば、躊躇いと呼ぶには不実な「非現実だ」という疑いがまだ心に残っている。そのせいか、もらえた力を全然発揮できていないと思う。
 
 ――私も、この力を本当の意味で理解すれば、想起するだけで力を発動できるようになるんだろうか?
 
 少なくとも今は、符針を手に持てるという程度のささやかな使い方しかできていない。力を使うための原動力って何かなあ。
 リュイはもし、私が符針すら持つことができなかったら、どうしたんだろう。
 全体の配置を確認しつつ、様々なことへ意識を飛ばす。符針を持つ指先は描くことに集中しているけれど、頭の中は整理し切れていない状態だった。失敗できないため、全身が緊張している。空気はひんやりしているのに、額に汗が浮かんだ。
 符針で描いた記号や線が、何だか熱を発している気がする。意識は次第に、たくさんの悩みや疑問を遠ざけて、陣にのみ向かっていった。
 四分の三くらい描いただろうか。あともう少し、と一瞬気を緩めた時だった。時間の経過は分からない。
 こつり、という小さな物音が聞こえたんだ。
 私達は一斉に通路の方へ顔を向けた。リュイが厳しい顔をしてランプを床に置き、静かに剣へ手をかけた。
「リュイ」
 呼びかけると、リュイは通路のある方を見据えたまま「静かに」と注意するように自分の口元に指を置き、足音を立てずに歩き出した。今度は、からり、と小石が転がるような音が聞こえた。扉は開けっ放しにしたままだった。
「あなたは陣を描き上げてください。ここから出ないように」
 リュイは小声でそう言ったあと、扉から出て行った。私は扉と陣を何度も見比べ、こくりと喉を鳴らした。
 深呼吸をした時、獣の唸り声のようなくぐもった音が耳に届いた。私達がここにいる気配を、魔物か獣が察して近づいてきたんだろう。神殿の守護が殆ど失われているのかもしれない。
 リュイの身が心配だった。明かりも持たせず、一人で行かせてしまった。けれど、ろくに剣を扱えない私がついていっても足手まといになるだけで、きっと悪い結果しか招かない。どんなに手伝いたくても、我慢しなければいけない。
 なぜなら、今、私にはやるべきことがある。陣を完成させることだ。自分に与えられた作業を途中で投げ捨てて、闇雲にリュイのあとを追うのは間違っているんだろう。まずは、できることを終えてから、次に待ち構えている何かに目を向けるんだ。
 私は唇を噛み締め、エルに視線を送った。念のために荷物から神剣を抜いて自分の腰にさしておく。リュイが倒される状況に備えてじゃない。複数の獣がいた場合、その全てを足止めするのは難しいだろう。一頭の相手をしている間に、別の獣が隙を狙ってこっちへ駆け込んでくるかもしれないため、用心が必要だった。
 急がないと。焦燥感を集中力に変えた時、エルが目を細め、再び指示するように前脚をぺたりと床に置く。
 リュイを助けるには、一秒でも早く陣を完成させなければいけない。
 一心不乱に符針を床へ走らせる。耳が獣の咆哮や何かが壊れる音を拾う。大丈夫、リュイは負けない。そっちに気を取られちゃ駄目だ。
 最後の記号を描く時は、指が震えた。
「――エル、リュイを呼び戻して!」
 私が迎えに行くより、エルが走った方が速い。それにもしリュイが負傷していた場合、背に乗せられる。
 エルは心得たように素早く扉の外へと駆け出した。
 使い終わった符針をどうしようかと一瞬迷ったあと、帯の中に入れる。エル、早くリュイを助けてあげて。焦りの中、そう祈った時、ふっと陣が揺れた気がした。
 目を見開き、自分が完成させた陣を見下ろす。初めて描いた陣の線は、やっぱり歪なところもあって稚拙だ。しかし、符針にこめられた力のためか、陣そのものの力なのか、まるで息づいているかのように淡く輝き始めた。
「ちょっと待って、まだ転移しちゃ駄目!」
 私は思わず、陣に向かって懇願した。私一人移動させられても困る。
「わ、わ!」
 陣の外に出ようとした瞬間、ぎょっとするようなことが起きた。淡く輝く陣の線が、床を離れて少しずつ浮かんできたんだ。
「駄目だってば!」
 私はおろおろとした。大体膝あたりのところまで、輝く陣が浮いた。そこで、なぜか、とまってしまう。願いが届いたというより、なぜか陣の線が苛立ちを示すかのように揺れている。私は唖然と、膝のあたりでとまり波のようにぐらぐらする陣を見下ろした。どうも何か見えない障害があるみたいに、それ以上は浮かんでこれないらしかった。
 もしかして、どこか描き間違ったんだろうかと別の焦りを抱く。もしそうなら、エルが気づいたはずだろうし。ではなぜ、陣がとまってしまったんだろう?
「響!」
 僅かに混乱した時、エルとリュイが戻ってきた。リュイが片手に下げている剣は、獣の血で濡れていた。鋭い眼差しを見て、まだ獣が残っているんだろうと思った。
 無事でよかったと声をかける前に、リュイが扉を閉め、陣を確認して、素早く近づいてきた。
「転移の呪文を」
 
 ――え?
 
 血の気が引いた。呪文?
 膝のあたりでとまって波打つ陣を見下ろした私の耳に、リュイの言葉が滑り込む。
「石版に記されている文字が呪文のはずです。それを詠唱せねば、転移の術が発動しない」
 それで、陣がとまっていたの?
 私は蒼白になりながら、陣の中に入ってきて目の前に立ったリュイを見つめた。
「……なんて書いてあるの?」
 私の掠れた声に、リュイが大きく目を開いた。
 
 ――私、この世界の文字は、読めない。
 
 リュイに読んでもらうしかない。この世界の住人であるリュイなら、判読できるはずだ。
 そう思ったけれど、リュイはただまじまじと私を見つめるだけで、答えなかった。
「文字は読めないの。なんて書いてあるか、教えてくれる?」
 嫌な予感が胸の中で広がり始める。
 リュイは瞬きを忘れた様子で私を見下ろしながら、かすかに首を振った。
「読めません」
 私達は見つめあった。エルが私の腕にすり寄った。
「呪文は、通常の言葉とは異なります。私には読めぬものです」
 次の言葉が咄嗟に思い浮かばなかった。それじゃあ、転移は。
 リュイはどうして呪文について先に教えてくれなかったんだろう。その疑問にはすぐ答えが出た。符針を手にすることができたから、通常の異世界語は分からずとも、その力で呪文を読み解けると誤解したんだろう。ウルスで異質な力を見せたというのもあるんじゃないだろうか。何より、実際に陣を描く瞬間まで、町々の詳細などはともかく、神様の眷属である私が力の部分に関わる魔術や魔法についてこれほど無知だとは予想していなかったんだろう。だから確認しなかった。……もっと勘ぐれば、全然知識がないと気づいたあとも、彫像の話をした時のことが頭にあったに違いない。リュイはあの時、本当に真剣な様子で「疑っていない」と繰り返していた。私が神様と会ったこと、力をもらったこと。
 もし、呪文を判読できるか訊ねたら、私に「疑っている」と思われると心配したんじゃないだろうか。 
 ああ、ちゃんとリュイと話をして、お互いの間にあった溝をなくしておくべきだった。口先だけで「信頼してる」と答えたのにリュイは気づき、何も言えなくなってしまったんだ。
 絶句する私の脇で、エルが唸った。どん、と扉の外側から、何かが衝突する重い音が聞こえた。まだ残っていた獣が、この部屋の扉を破ろうと突進しているんだ。
 私はリュイから視線を外し、石版に駆け寄って、記されている呪文を眺めた。読めない。やっぱり、分からない!
 オーリーン、どうせなら言葉を話せるだけじゃなく読めるようにもしてほしかったよ!
 心の中で責任転嫁する自分に呆れ、同時に罵倒する。私の力でできたのは、ただ陣を敷き写ししただけだ。いつも誰かの力を借りてばかりじゃないか。
 どうしたらいい?
 無意識に、身体が一度震えた。
「響」
 呼ばれて、ぎくりと振り返る。陣の中央に立っているリュイ。エルも輪の中にいる。低い位置まで浮かんでいた陣の図が、時間切れなのかゆっくりと力なく降下し始めた。はっとして、素早く石版に記されている陣へ視線を走らせる。悪い予想は大概的中するもので、石版の陣が薄らと消え始めていた。符針で描けば、たとえ練習であっても使用したと見なされる。一定以上の時間が経過すれば、転移が行われなくとも使用済みとされて消失してしまうようだ。完全に失われれば、また新たな陣の図が石版に浮かぶに違いなかった。もう一度新しい陣を描く余裕はない。扉の外で暴れている獣を倒したとしても、今度は別の危機が到来する。――夜の訪れだ。
 陣の構築に手こずって、時間をだいぶ浪費してしまった。もう夕暮れが近いんじゃないだろうか。夜の訪れと共に、レイムが出現する。
「――信じています」
 なすすべなく凝固する私へ、揺らぎのない視線を向けてくる。
 私はじっとリュイを見返した。
「あなたを、信じています」
 心が動いた。軋んだのか、震えたのか。
 信じる? 一体何を。
 でもリュイはシルヴァイ達のことを覚えていない。だとすれば、一体何を根拠に信頼を寄せてくれるんだろう?
 逆の立場なら、私は相手を信じきれるだろうか。突然現れて、意味不明な言動を繰り返し、足を引っ張る真似ばかりするような相手を、どうやって信じられるだろう。
 私の何を、信じるの。
 こんなに力がなくて、ことあるごとにつまづいて――
「……あぁまた駄目だっ!」
 私は思わず叫んだ。リュイが驚いたように瞬いた。
 また嘆いて、ひがむようなことばかり考えているじゃないか。堂々巡りするだけで、結局何もしていないのと同じだ。
 迷い過ぎだ!
 弱い自分に浸ってどうするの。
 リュイが何を信じてくれているのか分からなくても、いいじゃないか。
 すぐに自信は持てないけれど。信じられるものだってある。シルヴァイ達にもらったこの力、信じないでどうするんだろう。
 自分に気合いを入れるつもりで、勢いよくぱんっと両手で頬を叩く。ぐいぐいと、更につねったりして、痛みで動揺を静める。それから、びっくりしているリュイ達の方へ駆け戻った。
 呪文は読めない。それでも陣を動かすしかない。
 深呼吸。心を落ち着かせ、しゃんとするんだ。
「消えないで。ここは風神を讃える神殿でしょう。お願い私達を運んで」
 陣は答えない。私は片膝をつき、ゆらゆらと落ちていく陣を見下ろした。
「私の中には風神の力がある。まだこの神殿に守護が残っているなら――シルヴァイに敬意を!」
 たとえシルヴァイの存在が忘れ去られているのだとしても、その力の欠片を持つ私がいる。風神を抱く神殿の陣ならば、この力に呼応してほしい。
「答えて。風の神を、求めるなら」
 完全に床に落ちて消えかける陣の線に、私は額を押し付けた。平伏するように。
 
 ――動いて!
 
「風の神を信じて」
 囁くように語りかけ、額の神石を、僅かに熱を持つ陣の図へ当てた。ほのかな熱が額の石に伝わる。石の方が、力を陣へ送り込んでいるようにも思えた。つきんと痛むほど、額が熱くなった。儀式の間の扉が獣達の衝突によって破壊され大きな音が響いた時、陣が動いた。
 まるで意志を持っているかのように、不承不承という感じで再び陣の図が浮上した。
「わっ」
 詠唱なしに、正確には使いこなせていないシルヴァイの力で不備を補ったためか、浮かび上がった陣はひどく不安定でぐらぐらと波のように揺れていた。けれど、膝、お腹、胸へと浮上する陣は着実に息づいた。
 獣達が飛ぶようにしてこっちへ襲いかかってくる。
 はっと凝固して、間近に迫った獣達を見つめた時、陣が勢いよく輝き、風圧をもたらした。
「わ!」
 叫んだ瞬間、嵐に巻き込まれたかのように視界が乱れ、意識も何もかも、激しく捩じれた。

(小説トップ)(Fトップ)()()