F2:12
色々な体験を繰り返すうちに、少しは勘が磨かれたのかもしれない、と思った。
不意に、背筋に緊張感が走り、反射的に身体が動いた。
「!」
率帝が防壁の魔法を放つのと、私がソルトを構えて力一杯なぎ払う瞬間が重なった。金属音めいた声で吠える影の輪をベリトベッテがこっちに投げつけたのだと、剣を閃かせたあとにはっきり理解する。こんな切迫した状況だというのに、頭の片隅でつい考えてしまった。ベリトベッテが放った攻撃の輪はまるでアレに似ている。野性の動物を捕獲する時森に仕掛けておくような、小さい刃がいっぱいついた罠だ。ぎざぎざした口のような形をしていて、動物がそこに足を踏み入れた時、がしゃんと閉じるやつ。
ベリトベッテが放った輪の威力は凄まじかった。率帝が作った防壁の魔法を小さな鋭い刃で食い破り、その勢いのままに襲いかかる。神剣であるソルトでなぎ払ったためか輪を壊すことはとりあえず可能だったけれど、まるで固い石を無理矢理叩き斬っているかのような重い衝撃が腕全体に伝わった。指先が痺れてソルトを取り落としてしまいそうになり、焦りが湧く。余計な考えを頭から追い出して、もう一度ソルトをしっかりと握り直した。
けれど、一息つく暇はなかった。
ぽいぽいと物を放って遊ぶ無邪気な子供のように、ベリトベッテは次々と輪を飛ばしてきた。自分の身体の一部といっていいのか、影の胸部分からビー玉状の球体をたくさん生み出し、それを輪に変化させてこっちに投げつけてくる。
「避けて!」
私と率帝を追ってきた後方の人達に危険を伝えるため大声で叫び、警戒しながらも、ソルトを使って輪を叩き落とす。まだきちんと状況を把握できていないだろう率使の人達も、目の前に迫る危機だけは理解したらしく率帝に倣って防壁の魔法を使い始めた。でも、率使の最高位に立つ率帝でさえ一度の魔法では防げず食い破られてしまうくらいの威力がある。他の人達の防壁では、連続して魔法を使わない限り歯が立たない。防御するのが限度で、攻撃に転じることが全くできていなかった。
なんて強い!
七十七将の一人として数えられる大魔の力。輪を叩き壊すだけで、私も精一杯だった。
このままでは全滅するという予感に鳥肌が立つ。
「くっ」
苦痛の声が聞こえ、私は向かってきた一つの輪を叩き割ったあと、急いで振り向いた。
率帝に輪が集中している。全部なんてとても壊せないだろう。側へ駆け寄ったディルカや琥珀が何度も剣をふるって輪を壊そうとしていたけれど、滅しきれなかった一つが率帝の腕に噛みついてしまった。私が近づく前に、率帝は苦しげな顔を見せながらも魔法でその輪を溶かした。
「火だ、火暁の魔法で溶かせ!」
血が流れる腕を庇いながら率帝が他の率使たちに叫んだ。かぎょうのまほう。火暁、という言葉の意味は分からないけれど、とにかく火属性の魔法なんだろう。
私はどうすればいいんだろう。シルヴァイは風の神だ。火なんて操れない。
――主、惚けるな。引け!
引けと言われても無理だよ!
有効な案が全く浮かばず、頭を抱えて絶叫したい気分だった。
「率帝!」
ディルカの声に、我に返る。なぜか輪は先程から率帝を集中して狙っているようだ。
そうか、ベリトベッテは召喚された魔だ。けれど率使達は皆レイムにされてしまい、召喚の契約は放棄されてしまった。中途半端な形で無責任に放り出されてしまったベリトベッテは自力でもとの世界に帰ることができず、そういう境遇に追い込んだ率使達をおそらく恨んでいる。特に、召喚時中心となってベリトベッテをねじ伏せただろう率帝を。
「ベリトベッテ!」
私は思わず大声を出し、大魔の注意をこっちに向けた。
軽卒娘め、と罵るソルトの声が胸いっぱいに広がり、うっと息が詰まりそうになった。そんなに怒らなくても。
「ひゃあ!」
ベリトベッテは今度は、自分の身から取り出した球体を槍のような形に変えて飛ばしてきた。率帝排除を防ごうとする邪魔な私に集中攻撃だ。
ソルトー! と仰天した私は内心で思いっきり叫んだ。なんだか「無鉄砲娘、無謀娘……」と心底呪うような感じの呻き声が聞こえた気がするけれど、それでもソルトは私の意を汲んで、身体を少し操ってくれた。凄腕の剣士みたいに手足が動く。
どうしよう、サザディグ王子を蘇生させた時みたいに、ソルトに身体を明け渡して、あの腕になってもらった方がいいんじゃないか。手足の動きを速くしてもらっても、ベリトベッテとの実力差は全く埋まらない。
というか、いくら何でもこう次々と休む間もなく槍を飛ばされたら、全部を叩き落とせない。
もっと手加減してよ、と理不尽な恨み言を胸中で呟いてしまった。
駄目だ、落としきれなかった槍が突き刺さる、と息を呑んだ瞬間だった。空気を裂く鋭い音が耳元で響いた。左右から伸びた二本の剣が、槍を叩き落としたんだ。
「わ」
と思わず気の抜けた声を上げてしまった。駆けつけてくれたらしい琥珀とリュイが助けてくれたのだと分かった。
どうも二人は示し合わせて行動したのではなかったらしく、互いの顔を驚いた目で見つめていた。駆け寄った勢いで翻っていた二人の長衣の裾が、ばさりと小さな音を立てて元に戻る。
助けてくれて嬉しいけれど、二人とも、硬直している場合じゃないから!
ベリトベッテは槍を飛ばすのに飽きたらしく、今度は自分の影――髪の部分を伸ばして、鞭のようにしならせた。
我に返ったらしき二人が体勢を整えるより早く、鞭がこっちに振り下ろされる。私は思わず、二人の間をかいくぐってその鞭を切り落とそうとソルトをふるった。でも体勢が悪く、力をちゃんと入れられなかったのが災いした。
切断しきれなかった影の鞭が私の身を捉え、ぶんっと弧を描くように大きくしなる。その勢いのまま、私の身体は投げ飛ばされた。鞭の勢いが良すぎたのか、皆から遠く離れた位置、ベリトベッテの斜め後ろの場所に叩き付けられてしまう。
「いっ……!」
不格好な体勢で床に激突してしまい、全身に火花が散りそうなくらいの痛みが走る。
ソルトの力を借りても、すぐには動けなかった。麻痺しているんじゃないかと思うくらい、身体が痛みでじんじんとした。しかも床に衝突した時、唇の裏側辺りを噛んでしまったようで、血の味が口内に少し広がっている。
動けなくなった私に興味をなくしたらしいベリトベッテは、次に他の人達を狙った。
おそらく、遊戯のようにいたぶる時間は終わったんだろう。ベリトベッテは自分の足元を中心として、床に影を広げた。地底に広がる樹木の根のように影の先が幾重にも分岐し、茫然としている人々を狙う。
どうしよう、皆。
逃げ惑う人々を、床から這い出た影の蔓が絡めとった。身を捕えてじわじわと絞め殺すつもりなのかもしれなかった。
火、火の魔法が効くって。でも私には火の力がない。
どうすれば、と焦り、なんとか上体を起こした私の目に、先程率帝が天井の装飾品にひっかけた松明の炎が映った。
火がある。そして私は、風の力なら借りられる。
だったら、やるっきゃない。
――おのれ主めっ、またしても我を!
ごめんソルト、すっごく感謝してるから、と胸中で叫んだあと、天井の松明へ向かってソルトを勢いよく投げつけた。
ソルトの先端が天井の装飾品にあたり、その衝撃で松明が落下する。私は落ちてくる松明に向かって走った。動けないなどと嘆いてだらけている場合じゃなかった。
ソルトまでも回収する余裕はない。ごめんね、ソルト!
落下した松明を拾い意識を集中させる。動き出した私に、ベリトベッテが五つの目を向けた。床を自在に這い回っていた影がまた分岐し、こっちにも狙いをつけて動き始めた。そして、私を捕えるべく、床から這い出たたくさんの影の先端が花開くように広がる。多分、まわりを取り囲んで逃げ場をなくしたあと、一気に飛びかかるつもりなんだろう。
風の力、どうか目覚めて。
松明を持っていない方の手で額の神石に軽く触れたあと、今度はその指を唇に押し当てる。さっき唇の裏側を噛んだ時、血の味がしたので、それを付着させるためだった。呪文とかがさっぱり分からないので、こんな真似をしてみたんだ。
私は眉間が痛くなるくらい願い、そして指先を松明の中に差し込んだあと、ふっと息を吹きかけた。私の身体に、影の先端が絡み付いた時と同時だった。
「!?」
あの時と似た光景が広がる。ウルスでレイム達を焦がした時のような、想像を超える光景だ。
松明の炎が突如覚醒したかのごとく膨れ上がり、螺旋を描きながら、私の身にはり付いた影を瞬時に燃やした。そして翼のごとく滑らかな動きで広がり、静かに佇んでいたベリトベッテへと襲いかかる。
分身のような影はたくさん動かしていたけれどもベリトベッテ自身が大きく動くのは初めてだった。火鳥と化した炎に苛まれ、ベリトベッテが苦しげにもがき始める。率帝が魔法で作った炎に風の力をプラスしたためなのか、かなりの威力があったみたいだった。皆の身体を捕えていた影が一気に引き、ベリトベッテの方へ戻る。
けれど七十七将に数えられる大魔が、それだけで消滅するはずがなかった。シルヴァイの風を注いだ炎でさえ、ベリトベッテの抗う力におされている。動きを封じることができただけでも上出来なのかもしれなかった。
「威神の杖をもちて粛と魔道冽界(れっかい)の聖帳(せいちょう)へと誘掖す――」
炎が立てる轟音を貫くかのように、凛と澄んだ声が響いた。私は振り向いた。独鈷杵に似た法具を掲げる率帝が、その言葉を紡いだんだと分かった。他の率使たちも似たような法具を持って率帝の側に膝をつき、呪言めいた言葉を紡いでいるらしかった。率帝や率使たちが持つ法具から落葉のように何かがひらりと剥がれた。それは確かに、透けている淡い金色の葉だった。空中で羽根のように踊り、次第に連なって鎖と化していく。
まさか、この場で召喚というか隷属させようとしているのだろうか。
――無駄だ、この人数では大魔を従属させることなどできぬ。今の内に、引け。
手放しているために少し遠い感じでソルトの声が聞こえた。
私は迷ってしまった。術を紡いでいる率帝達をとめていいのだろうか。
「――あ!」
戦えない人達の側にいたカウエスが、ぎょっとした声を響かせた。
身を包む炎の隙間をかいくぐるようにして、ベリトベッテは自分の一部を伸ばし、率使たちを襲ったんだ。
魔法の構築に集中していたらしい率使たちの身が、影の鞭でなぎ払われる。彼らの持っていた法具が、からからと音を立てて床を転がった。その一つがこっちの足元まで転がってくるのを、私は茫然と眺めてしまった。なんて強い魔なんだろう。本体を封じてもまだしつこく攻撃を仕掛けてくる。
いけない、ぼうっとしている場合じゃない。
「皆、今のうちに――」
逃げて、と言おうとしたのに、最後まで言葉を口にすることができなかった。
私は目を見開いた。
琥珀、駄目。
声が出ない。
ベリトベッテの動きが封じられているうちに消滅させようとしたのか。琥珀が勢いよく駆けて、剣を振るおうとしていた。
駄目、やめて。
恐ろしいことになる、そう直感した。
私はただ、愕然としながら、無意識に手を伸ばしていた。
足が動かない。
伸ばした手は、届かない――。
「アンバー!」
床に倒れた率帝達の方へと駆け寄ろうとしていたリュイが、驚愕の表情を浮かべて叫んだ。
私は大きく身を揺らした。凍り付いていた身体を一度見下ろし、それから全速力でアンバーの方へ駆けつけようとして――炎が、鳴いた。
「琥珀」
琥珀の振り下ろした剣は、ベリトベッテの肩口に食い込んだ。
違う、ベリトベッテはわざと剣を食い込ませた。
「琥珀、離れてっ!」
叫びながらベリトベッテに近づいた時、炎が大きくよじれた。私は思わず足を止め、顔を庇った。
ベリトベッテは炎ごと、琥珀を捕えていた。身をよじる彼の首に、蜂蜜色の石が光っている。たぶん石は、攻撃の意思をもった琥珀の心に反応して獣の姿をとき、彼の身を守護するためペンダントに戻ったのだろう。
その石の加護があるためか、ベリトベッテの力と炎、両方に焼かれている状態だというのに琥珀の身は燃えていなかった。彼は囚われた状態でも必死に剣を抜こうとしていた。
「琥珀!」
私はもう一度叫び、炎に包まれているベリトベッテに無我夢中で飛びついた。風の力を借りて作った炎だから、本来であれば私に対して害をなすはずがないのに、ひどい穢れを含み熱かった。ベリトベッテの力と混ざり合ってしまったために、炎の質が変化し始めているのだと思う。つまりそれは、炎の力がベリトベッテに競り負けたという意味だった。
「んん!」
私は弾き飛ばされた。しがみついた時に両手を焦がしてしまったらしく、黒くなってところどころの皮膚が爛れていた。服も焦げたらしく、嫌な匂いを発している。私は束の間、床にへたりこんだ体勢で、茫然とベリトベッテを凝視した。
あぁ、ソルト。
ソルトなら、きっと斬れる。
私は床に転がっているソルトの方へ必死に這った。
その時、琥珀が耐えきれない様子で苦悶の声を上げた。守護石もまた、ベリトベッテの力に圧倒され、効力を失い始めているに違いなかった。
琥珀が焼かれてしまう。
「琥……」
身体が震えた。炎の中、ベリトベッテに抱きつかれて苦しげにもがく琥珀の姿がはっきりと目に焼き付く。ちりちりと燃えていく彼の長衣や髪の先。そういう細かい所まで鮮明に映る。
行かないと。だって琥珀は、私を助けてくれた人だ。照れたような微笑が脳裏に蘇る。まだ琥珀のことを何も知らない。この先たくさん、知り合っていくのだから。
「!?」
立ち上がった時、突然肩を掴まれた。
振り向くと、思いもよらない人――ディルカが、青ざめて強張った顔で私を見つめていた。
「今の内に逃げるしかない」
「え?」
今、なんて言ったの。
琥珀を犠牲にして逃げると。
「そ――そんなっ」
そんな馬鹿なことできるはずがない。私は声を震わせ、大きく首を振った。ディルカの腕から逃れるために身を捩り、一歩よろめいた時、今度は別の手に阻まれた。自分の腕を掴む大きな手を束の間凝視したあと、ゆっくりと視線を上げる。苦悩の中に宿る非情な覚悟、そういった考えを確かに伝える月色の瞳とぶつかった。
リュイ、と口の中で呟く。嘘でしょう。
リュイまでも逃げろというのか。
「いやだ……嫌、離して」
抗うと、力づくで無理矢理ベリトベッテや琥珀がいる場所から遠ざけられた。リュイの腕を押しのけるのに成功しても、次にはディルカが自分の身体を盾にするようにして立ちはだかる。
ベリトベッテは琥珀を捕えた状態のままで、私達に繰り返し攻撃を仕掛けてきた。風をはらむ炎の威力が落ちてきているためか、いくつもの影の先端を私達に向かって飛ばすことができるようになっていた。
それを、率使たちや騎士が必死に食い止めようとしている。逃げるなら、きっと今しかないんだろう。もう少しできっとベリトベッテは炎を完全に飼い馴らしてしまう。
でも嫌だ、絶対に逃げるものか。誰も置き去りにしない。そんなことは絶対にしない。
「響!」
「手を離して!」
死に物狂いでもがき、二人を押しのけようとしたけれど、体格差と力で自由を封じられてしまう。
カウエスが床に落ちているソルトを拾い上げ、おどおどとこっちを見たあと、不意に泣きそうな顔を作り首を振った。カウエスまでもがリュイたちと同じ意見なのだと分かり、思わず怒りを抱いて睨みつけた時だった。
琥珀の絶叫が聞こえた。
炎の色が禍々しく、濃くなっていた。溶け始める肌。焼かれる髪。炎。炎。
守護の石が、砕け散ったのが見えた。
石の欠片が最後まで彼を守ろうとしたのか、その身に吸い込まれていく。
私は愕然とその光景を見た。私の身を引きずっていたリュイとディルカもまた血の気の引いた顔で、ベリトベッテに抱きつかれながら炎にまかれる琥珀の姿を見ていた。こっちの動きを封じる手から、わずかに力が抜けたのに気づく。その機を逃さず勢いよく身を捻って、二人の腕から抜け出した。
よろめいて床に倒れた私の目に、率帝たちが持っていた独鈷杵のような法具が映った。さっきこっちに転がってきたものだ。
咄嗟にその独鈷杵を握り締め、琥珀の方を見やる。助ける、絶対に助ける。死なせない。
がちがちと歯が音を立てそうなくらいの震えが身体を襲う。助けられなかったらどうしようという恐怖を無理矢理飲み込み、全身に力をいれた。
「響、立つんだ!」
リュイの声がすぐ側から聞こえた。
「何を――」
リュイの声も、ディルカの声も、意識を揺るがすものは全部遮断した。独鈷杵を握る指に力をこめ、ベリトベッテの方へ向ける。
倒せないのなら、縛ってみせる!
「いしんのつえをもちて、しゅくと、まどうれっかいの――」
さっき率帝が紡いでいた呪文を、私は口にしていた。なぜかすらすらとその言葉が飛び出てくる。
「はげんこっけいの、とりことなして、かいじをうたう――」
葉玄刻景の虜となして櫂辞を謡う、呪は樹、音は根、万象歴々と天河栄典の階に転じ鏡像聖槍の玉あゆがせん、なれば言は現、法の御霊たる昏き石鎖(せっさ)は賢なる金率(きんりつ)の床也、願い給う祈り給う光食(こうしょく)生ず御手の先に――…
正直、言葉の意味は分からなかった。ただその旋律のみが奇麗な音楽のように頭の中を巡っている。
不意にベリトベッテがこっちを見た。騎士達を襲っていた影の枝が再び大魔本体へと戻り、今度は一本のみとなって私だけを狙った。私は必死に呪文を紡いでいた。意識を少しでも乱せば頭の中からこの旋律が消えてしまう。額が燃えるように熱い。自分の中にある神力が激しく蠢いているのが分かる。
リュイとディルカが、動けない私に代わってベリトベッテの攻撃を防いでくれたけれど、きっと長くは持たない。この一度が失敗してしまえば、もう大魔の攻撃を封じられないだろう。
とぎらせることなく呪文を紡ぎ、心の中で強く命じる。
跪け、大魔。
この声、力、存在を知れ。
私が主だ。
「ならし、なれ。わがもとに」
鳴らし、成れ、我が元に。
ベリトベッテが悲鳴を上げ、琥珀を投げ飛ばして、私に突進してきた。