F2:28


 よく考えれば、三年ほど前……家族を手にかけた時のリュイは、まだ二十歳をちょっとすぎたくらいだ。日本で言えば、大学を卒業して一年経つか経たないかってところじゃないだろうか。たとえ将軍と呼ばれて皆を先導する立場についているのだとしても、その若さで色々なことを全部背負わなきゃいけないという状態は想像し難いほど苦しいものだったと思う。主人であるラジラス王子も家族も皆、縋るように死を望む。リュイはその中で一人茫然と立ち尽くしたんじゃないだろうか。一体何を守ったらいいのか分からなくなり、迷いの晴れぬまま生き延びたに違いない。
「響、だからこういう人間を強いなどと言ってはいけません」
 ふっと視線を流して苦笑するリュイを、何も言えずじっと見た。
「ただ、己の前で何かを失うのはもうごめんです。特にあなたは、私を拾ったのだから」
「……拾ったとかじゃない。それに、私の方が、拾われたんだと思う」
「違うでしょう、初めのあなたは、私を置き去りにしていこうとした」
「それはっ色々とあって!」
「ええ、私にも色々ありました」
 幼子に向けるような口調で言われ、私は耳が熱くなった。
「こんな時に、茶化すような言い方!」
 責めたいわけじゃないのに、うまく言葉が出てこなくてもどかしい。やきもきする私の様子を見たリュイが、苦笑を深める。
「たとえどういった状況でも、あなたを失いたくないのです」
「う、失ってなんかない!」
「どうだか」
 即座に冷たく言われ、かっとしてしまった。
「ここにちゃんといるし、もうあんまり馬鹿な行動とか取らないようにもする!」
「本当に?」
 また斬りつけるような鋭い目で見られる。ああ、リュイは、何かを失うことに自分でも制御できないくらい囚われているんだ。
「信用できないな、あなたの言葉は」
 突き放すような声音に、内心で「ひどい」と反駁した。
「けれどあなたは愚か者を見捨てない。本当に下劣な行動に出るのも面白いかもしれない」
「リュイったら!」
 声をひそめて怒る私を悠然と見つめたまま、リュイが突然腰を上げた。乱れた髪がさらりと頬を覆い、月色の瞳をわずかに陰らせた。
「話してみましょうか、先ほどの真実をサザディグ殿下方に。私はこの場で裁かれるだろうか」
「な――」
 立ち上がったリュイの腕に思わずしがみついた。リュイの瞳が緩慢な動きで私を見下ろす。
 絶対に駄目だ、と私は青ざめた。もしさっきの話がサザ王子たちに知られたら、間違いなくリュイは処罰を受ける。最悪、死罪とかもありえるんじゃないだろうか。リュイの過去の行いを異世界人である私が善悪で判断することなどできないけれど、今の状況で真実を伝えるのは何があってもいけない。リュイが裁きを受けるという事態そのものも絶対に嫌だし、皆に動揺を与えるのも駄目だ。先が見えない状態だというのに、益々皆の間に亀裂が生まれる。
「リュイ、やめて」
「なぜ?」
 青ざめる私に向かって、リュイがわざとのように優しく笑った。
「私は裁かれるべき。最早己に執着がないのだから」
「お願い、やめて」
 リュイは身を屈めて私の顔を覗き込んだ。綺麗に澄んだ月色の瞳には、燃えるような意思が滲んでいる。それはどこか愉悦の陰をひそめていて甘い。
「あなたのために、やめてほしい?」
 私は口を開き、だけどすぐには言葉を返せず、縋る思いでリュイを見上げた。私たちの不穏な様子に、サザ王子の側にいたイルファイが気づいたらしく怪訝な顔を向けている。
「あなたのためというなら、従ってもいい」
 どうするのか、と言外に問う眼差しに、私は冷や汗を浮かべた。本当に事実を暴露するつもりなんだろうか、それとも私を脅すつもりなだけなのか。
「あなたがとめないのなら、私はどんな痴態でも演じられると言った」
 イルファイが身を起こして、こっちに近づいてくる。どうしよう、と私はパニックになった。
「リュイ、ほんとにやめて。言っちゃ駄目」
「私の懇願には耳を貸さないのに?」
「もう、ほんとに、分かったから、お願い」
「あなたのために?」
 一度視線が強く絡まった。
 すぐ近くまできたイルファイが、どうした、と声をかけてくる。
 本気だ。リュイは、私がとめなければきっと本気で過去の行いを暴露する。
「――私のために」
 掠れた声で答えたとき、リュイがわずかに目を細めた。ふうっと溶けてしみ込むような、仄暗い悦びの色がその目に滲んでいた。
「何の話だ?」
 私の様子を見て、イルファイが警戒の色を目に乗せた。なんでもないと言って誤摩化すべきなのに、リュイの出方が分からず身体が強張る。
「将軍、何事が?」
 私から視線を外したイルファイは、詰問の勢いでリュイを見据えた。
「――いえ、サザディグ殿下が」
 リュイ!
 リュイの腕を掴む指に力を入れ、お願いだから言わないでと必死に目で訴えた。するとリュイがすり抜けるように自分の腕から私の手を一度払い、その後すぐに、ごく自然な動きで指を絡めてきた。
「殿下が負傷されたことを、響がひどく気に病んでいます。皆と共に行動しない方がいいのではないかと言うので」
 え?
 さらりとリュイが告げた嘘に、イルファイも私も目を見張った。
「馬鹿な」
 イルファイの目が勢いよくこっちを向いた。
「皆にとってもその方がよいのならば、別行動をすべきかと、それを伝えに――」
「待たんか」
 イルファイが眉間に皺を寄せてこめかみを押さえた。
「ここで響の行動が制限されては本末転倒です。排斥されながらもともに進めというのは道理に合わない」
「皆が皆、娘を排除しようとしているわけではないのだぞ」
「そうは思えません。――それに、殿下が蘇生を可能とすることは立証されました。ならば、必ずしも響を皆の中に置いて行軍する必要はない」
「待て。極論すぎるぞ、月迦将軍」
 頭が痛いと言いたげな顔をしたイルファイが、ちらりとこっちに視線を向けた。一体どういうことなのか、と聞きたいらしい。
「理解しながらも、誰も真摯には考えていないようだが、響の力は無限ではないのです。あなたも気づいたはずだ、響は己を殺してでも皆の意思を優先させ、いらぬ局面で力を浪費する」
 イルファイが唇をへの字に曲げて小さく唸った。
「この娘に関わりすぎている、というのか?」
「響は許容しすぎるのですよ――その性質ゆえに誹謗のみならず、受ける必要のない憎悪までも背負おうとする。そして過ちと分かっていても尚、皆に添おうとする。滅びを防ぐために来た彼女を、人が滅ぼしてどうするのか」
 私は情けなくぱくぱくと口を動かして、なんとか会話に参加しようとしたけれど、リュイが視線をイルファイに定めたままさりげなく前に立ってしまった。
 イルファイが溜息をついたようだった。
 私を庇ったりしたらリュイが悪役になってしまうと焦り、絡められていた指を無理矢理外したあと、必死に彼の背中にしがみついて合図をしたのに、一度も振り向いてくれない。
「どうされましたか」
 緊張感に満ちるこっちの様子を訝しげに感じたらしく、率帝までもが近寄ってきた。本当に、どうしたらいいんだろう!
 
 ――狂愚の烈士か。全く厄介なことだ。
 
 突然割り込んできたソルトの声に、更に焦りを募らせてしまう。今の言葉って、リュイをさしているのだろうか。
 
 ――破倫であると自覚しながらもどうやら主を守り尽くす気のようだ。清虚ではないが、なんとも凄まじい。ある意味、狂妄に取り憑かれているな。殉死の勢いだぞ。
 
 殉死ってそんな。
 ソルトの極端すぎる表現に、飛び退いてしまいたくなるくらい驚いた。けれども本当にリュイは自分の命に対して価値を見出していないように思えるから、その表現はなんだか現実味を帯びている気がして不安になる。
「将軍の言いたいことは分かっている。だが」
 苦渋の顔をしたイルファイが、ちらりと私を見て、更に表情を歪めた。
 濁された言葉を想像できてしまった。
 リュイは私を庇うために、他の人たちを責めるような台詞を言った。滅びを払うために来た私を、人が滅ぼすのは本末転倒だと。
 私だけの目線でいえば、確かにそうだと頷いてしまいたい気持ちもどこかにあった。でも現実は、もっと複雑だった。
 イルファイが声に出さなかった反論は、きっとこんな感じじゃないだろうか。「だが、その滅びを払うはずの者が、なぜこれほど頼りにならず、更なる犠牲を出して、人々を不安にさせるのか」――きっとこの解釈で間違っていないだろう。実際に声にしなかったのは、イルファイの優しさだと思う。
 私は漏れそうになる溜息と落胆を無理矢理おさえた。本当にもっと私が頼れる存在であれば、現実は全く違う局面を見せてくれただろう。結局のところ、災いや不審を招いてしまうのは自分自身だ。身から出た錆という以外にない。
 私は確かに、自分の意思でこの世界に来たんだから。
「……響様、お話のところ申し訳ないが、殿下がお呼びです」
 こっちの様子がおかしいと感じて近づいたのではなかったらしき率帝が、感情をおさえた声音でそう言った。率帝もやっぱり内心ではサザ王子を守りきれなかった私に対して憤りや不信感を強くしただろうか。自業自得だけれど、他人に本気で憎まれるのは身体が凍り付くくらいに辛い。
「うん、分かった」
 握り締めたままだったリュイの服から指を離し、なるべく平静を装って頷いた。
 リュイも同行してくれそうな気配を漂わせたけれど、イルファイが引き止める。私がいたら言いにくい話を続けるつもりなんだろう。
 私は率帝と一緒にサザ王子の方へと近づいた。端の方に何枚か毛布を重ね置いて寝椅子代わりにしているふかふかした敷布の上でサザ王子は身体を休めている。私が近寄ると、側にいたバノツェリや神官らしき人が露骨に警戒の顔をして睨んできた。他の場所にいた騎士たちや女性陣からも強い視線を感じて、背中がぴりりとした。
 私を見上げたサザ王子が上体を起こした。
 少し戸惑ったあと、サザ王子の正面に座り込む。傷を隠すようにして巻かれた顔の包帯が痛々しい。
「――休めたか?」
 唐突に聞かれて、私はぎこちなく頷いた。
 硬い表情を崩せず、うろうろと視線をさまよわせていたら、サザ王子に苦笑されてしまった。
「神官長らに、随分叱責されたようだな」
 サザ王子の言葉にぎょっとしたのは私だけじゃなく、名指しされたバノツェリもまた肩を揺らして驚いた表情を見せていた。
「だが、私は女性ではない。剣を取れば傷を負うこともあるだろう」
 もしかして、傷のことは気にするなっていう意味なのかな。
 なんだか前よりサザ王子の態度が柔らかい気がして、逆に戸惑いを感じてしまう。
「殿下、何を仰るか」
 バノツェリがすごく厳しい顔を見せた。眉間の皺が彫ったかのように深い。
「御身は我らにとって何より尊いのです。それが」
「私は王族。しかし、王族は私だけではない。今現在、王族で私のみが先に蘇ったというだけのこと」
 バノツェリが目を白黒させた。
「殿下!」
「バノツェリ。今後、いずれは他の王族も蘇る。ならばその時、我が血族の者を決して損なわぬよう守護せよ。私は――剣を取り、前に立つ」
 サザ王子がきっぱりと断言した。強堅たる意思がうかがえる迷いのない目をしていた。
「なりません、殿下。剣を取るのは騎士の役目ですぞ」
「決めたのだ、もう。私はこの手で人が蘇る瞬間を作りたい」
 サザ王子の静かな表情に、バノツェリが限界まで目を見開き、それから勢いよく私に顔を向けて睨んできた。思わず身をひいてバノツェリを見返してしまう。
「その娘にそそのかされたのではない」
 凝固する私にサザ王子が微笑を向けた。
「私は王家に傷がつくことを恐れていた。王家の神性に傷をつけてはならない――ひいては、王族の者の身が損なわれ血が流れるということもまた、神性が穢されるのだと考えていた。けれども今、この身にある傷を穢れとは思わず、誇りと捉えている。己が民を救った証なのだから、何を恥じる必要があるだろうか」
 サザ王子に視線を戻したバノツェリの目から不満の色が消え、何も見逃すまいとする真剣さが浮かぶ。
「この傷と痛みこそが、皆の苦しみではないか。守られるべきは王家ではなく、この国で生きるすべての者だ」
 サザ王子が凛と告げた。硬い表情を浮かべていた人々から、何か重いものがすっと落ちたような気配が漂う。
「娘が確かに国の荒廃を防ぎにきたのだと、認める」
 私はびっくりした。バノツェリと同様、食い入るように見つめてしまう。
 サザ王子は私とバノツェリ、そして沈黙を守っていた率帝や他の人々を順番に眺めたあと、レイム蘇生の成功と顔を傷を作った原因、ユラスタたちより帰還が遅れた理由、帰還の方法など、仔細を丁寧に説明した。
「率帝、神官長。私に従うように、娘にも従い、援護を」
 出来事の説明後、私にとっては破格の言葉で、皆にとっては爆弾発言に等しい言葉をサザ王子は口にした。皆が押し黙り、ぴりぴりするほどの緊張を見せる。勿論私も頭が真っ白になっていた。その台詞って。
「盲目的に恭順を示せ、と命じているのではない。諫言や助言の類いまで控える必要はないのだ。意見の対立はかまわぬが、それは協力を前提にした上でだ」
 サザ王子の爆弾発言は続いた。
「おそれながら殿下、その命は、王族方と同様に娘と接せよと?」
 バノツェリがぎこちなく問い返すのに、サザ王子は少し考え込む表情をして緩く首を振った。
「いや、娘は王族ではない――神々の眷属」
 私は思わず声を上げそうになった。皆の表情に衝撃が走り、どよめきが広がる。
「娘は、王家に殉ずる者ではない。だが敵対する者でもない。そして国政の動きを掌握しようともしていない。ただ人民の蘇生のみを目指している。仮にこれが、言葉上のみでの誓いならば認めはしなかった。しかし娘は王族、平民関わらず、人の蘇生だけに集中しており、覇権を求めてはいない。命をかけた場で、その行動を見た。ゆえに、認める」
 じんと身体中に熱が広がり、震えそうになる。
 サザ王子が認めてくれた。信じられない。
 ほしかった信頼を、皆の前で見せてくれた。
 予想もしていなかった展開に茫然としていたら、サザ王子がこっちに手を伸ばしてきた。差し伸べられた手の意味が分からず、というより放心状態が続いていたので、ぼうっとしばらくの間見返していると、背後から誰かのせかすような空咳が聞こえた。慌てて振り向くと、いつの間にか後ろにイルファイたちが寄っていた。どうやら空咳をしたのはイルファイらしい。鈍感な私に、目で何かを訴えているようだった。
 
 ――主、察しが悪すぎる。手を取れ。
 
 ソルトの、すっごく情けなさそうな声で我に返り、直後思い切り狼狽してしまった。
 優雅さのかけらもないような慌てた動作で、しかも両手で勢いよく、サザ王子の大きな手をぎゅっと握り返してしまう。恥ずかしい。
 
 ――主……。
 
 もう何も言えない、といった感じのソルトの声に、私は本気で泣きたくなった。だってこういう時どうすればいいのか分からないんだもの!
 まさか両手で握り返されるとは想像していなかったらしきサザ王子が明らかに驚いた表情を浮かべたんだけれど、私がどっぷり落ち込むより先に、小さく笑ってくれた。それから、この恥ずかしい振る舞いを叱責することもなく、自然な仕草で私の片手の指をそっと取る。軽く手を引かれたと思ったら、サザ王子がわずかに頭をさげて私の手の甲に口づけた。
 うわあ! と内心で叫んでしまう。恥ずかしいというよりもういたたまれないし、なんか土下座したい気分だ。
「――我らに、明日の火を」
 がちがちに凍り付いている私に、凛然とした目を向けてサザ王子がそう言った。
 
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 サザ王子の爆弾発言プラス行動は、たぶん孤立しかかっていた私の立場を考えたものなんだろう。
 私はよろめきつつもサザ王子から離れ、動転しまくっている自分を少し落ち着かせようと、壁際に戻ることにした。
 その時、すごく強い……悪意を秘めているような、鋭い視線を感じた。
 ひやりとする思いを抱きながら、なるべくさりげなく映るよう視線の持ち主を探す。すぐにその持ち主は見つかった。ロアルだ。
 偶然そっちに目がいっただけ、というふうに見えるよう注意していたのに失敗した。つい驚きを顔に出してしまったんだ。
 なぜならこっちを睨むロアルは、リュイに寄り添うようにして立っていたためだ。
 リュイと知り合いなのかな、でもロアルに睨まれる意味が分からない。危険な目にあわせたことを恨んでいるのだろうか。もしかしたらサザ王子を籠絡したと誤解されているのかも。
 足までとめて狼狽する私の方に、リュイが近づいた。ロアルは視線を外して下を向いたけれど、こっちに見せていた拒絶の雰囲気は消えていなかった。
 リュイに、ロアルと知り合いなのか聞きたかったけれど、なぜか口が重く感じて結局自分からたずねることはできなかった。
 そしてこの時、もう一つの視線があったのに気づかなかった。
 カウエスもまた睨むようにしてこっちを見ていたことを。
 
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 なんだかうまくいかない。
 私は内心で大きく溜息をついた。
 人数も増えたし、サザ王子の怪我もあるし、という事情により、もう一日だけこの隠し部屋で過ごすことになった。本当ならばサザ王子の傷が完治するまでは動かない方がいいんだろうけれど、食料や飲み物の残量の問題があるため、全てを消費する前に早めに移動した方がいいという話に落ち着いた。
 そんなわけで再びイルファイたちは今後どうするかを話し合い、他の人々は休憩していた。私もイルファイたちの論議に参加……したいと思っていたのだけれど。
 なぜこうなっているのかなあ、と少し頭を抱えたい心境だったりする。
 というのも、今の私はなぜかサザ王子の側に座らされている状況が続いているためだ。動こうとすると、バノツェリの右腕って感じがする神官の人に無言で非難の目を向けられてしまう。更に言えば、なぜかなぜか私のお付きっぽくなってしまったリダ――図嶺院のトップらしきメレナの娘だ――にも「うごいてはいけません!」という顔をされてしまうし、これまたやっぱりお付きっぽくなってしまったクロラ(クロラの場合は明らかにバノツェリの陰謀というか命令って感じがする。というか全員がバノツェリの命令で動いているって感じがする)にもすごく困った目を向けられてしまう。ちなみに妖艶お姫様のレギアも側にいるんだけれど、彼女の場合は面白そうにこっちを観察している雰囲気だった。
 きっとバノツェリは、サザ王子の爆弾発言に驚愕しつつも最終的には臣下として忠実に行動しようと結論を出し、私にクロラをつけたりしたんだと思うけれど、うう、なんか本当に思い込んだら一直線というか頑固で真面目だ。バノツェリ自身はイルファイたちの話にまざっている。
 私が大人しくしていることには異論がないのか、近くに横たわっているエルはのんびりぱたぱたと尾を振っているし。なんか四面楚歌って感じがひしひしとするのは気のせいだろうか。
 サザ王子は話し合いに参加しなくていいのかなあと思ったんだけれど、どうも王族の人の立場って、臣下が議論の末にまとめて奏上した案を、最後に聞いて裁可するという感じのようだ。だからなのか、話に参加できずともサザ王子は特に不満そうな様子を見せず、ゆったりと身体を休めている。居心地悪そうにもぞもぞしているのは私だけのようだ。
 そしてリュイは――イルファイたちの議論を少し後ろから静観しているようだった。私はリュイの姿からすぐに目を逸らした。リュイの側には、ロアルが寄り添っている。
 私は意識を切り替えるため、ぱんっと自分の頬を両手で打った。クロラたちにぎょっとされてしまったけれど、このままただ座り続けていたらいつまでも鬱々とした気分は晴れない。
 それに、イルファイたちにも、肝心なことを伝えていないしね。
 よし、動こう。
 そう決意した矢先、話し合いが終わったらしきイルファイたちがこっちに近づいてきた。

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