【花よりも:3】


 さてさて、場所は変わって町中です。
 色とりどりの衣装に身を包む人々で、町の通りはとても賑わっているのです。
 鮮やかな天幕の露店や、飾り行灯、並び立つ旗、踊り子の宴、透き通る歌姫の声。町がまるでたくさんの花を咲かせているようです。
 その中でも、なぜかリスカ達が一番目立っているんです。
 まあ、この一団なら仕方ないというか、ご免ねリスカ、決して変な意味じゃないんだけれど、まるで、娼館の初見せ道中みたいに映る気がする。ごごご免ねリスカ。
 いえ、誰より一番目立っているのがツァルさんです。
 なぜならリスカと二人、あの奇妙な空飛ぶ乗り布に乗って、ゆっくりと混雑する通りを散策しているわけで。
 こんなに人でごった返しているのに、皆、道を開けてくれるんだ。
 ツァルさんは「これは乙女しか乗れぬものだよ!」と堂々宣言して、無理矢理リスカをその絨毯めいた布に乗せたわけだけれど。あのう、ツァルさん本人は、乙女なのかな? すごく性別を訊ねてはいけない感じがする。
 ところで、先程の、誰がリスカの手を取って階段を下りたかという問題はね。
 それは勿論!
 僕!
 リスカの手に乗せてもらって、階段を下りたよ。
 リスカもほっとしていたので、これでいいのです。
 
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「雨が降りそうだな」
 ツァルさんの奇怪な言動にようやく慣れたフェイが、ふと空を見上げて呟いた。
「ああ、どこかの天幕にもぐりこもうか?」
 未だ笑みを滲ませているジャヴが、軽く答えた。
 リスカが勢いよく同意を示した。一刻も早く人目の少ない場所に移りたいという感じだった。
 リスカはあんまり楽しそうじゃないね。
 僕は少し、落ち込んだ。気をつかわせずに、楽しませてあげるはずだったのにな。
 ご免ねの意味をこめて鳴くと、リスカは強張った笑みを返してくれた。さすがに化粧までは許さなかったみたいだけれど、髪はもとの短さを隠すように、奇麗に結い上げられている。女性の身体の時だったら、この衣装も悪くないと思うんだ。
 あのね、リスカよりも美人な女性は……たくさんいるのです。けれども、リスカほど穏やかで優しい目をしている人はいません。だから身贔屓かもしれないけれど、やっぱりリスカが一番奇麗に見えるのです。
 嫌がっていたのに無理して着替えさせて、こんなにリスカの顔が曇るのなら、やめておけばよかった。温かい目が今はずっと伏せられたままで、悲しいな。
 リスカは、とある露店の天幕に辿り着くまで、一度も顔を上げなかった。
 セフォー達はちゃんとそのことに気づいているのかな?
 
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「雨が」
 誰かの声で、一瞬、周囲の騒ぎが静まった。
 やっぱり空は泣き出してしまったんです。
 天幕の中で、たくさんの飲み物や食べ物を頼んで、しばらく休んでいた時のことです。次々と注文したのはツァルさんで、なぜか支払いはフェイがしたよ。リスカは黙々と食事に集中していて、皆の問い掛けにもただ言葉少なに返事をするばかりだったし、外に視線を向けようともしなかった。
 まるで、リスカの心に空が呼応したみたいに思えて、僕はさっきよりも悲しくなってしまった。
 あと半刻ほどで花が降るはずだったのに、雨ではそれも中止になってしまう。
 何のために来たのだか、これでは全く意味がないんです。
 皆、駄目だよ、リスカをどうして楽しませてあげないの! 空が曇っているのなら、せめて心だけでも晴れにしないと。
「小鳥さん?」
 焦れったい気分になって、皆に向かってうるさく鳴くと、誰よりも早くリスカが気遣ってくれる。
 ああほら、リスカだけなんです。言葉が分からなくても、ちゃんと耳を傾けてくれるのは。
 僕は、差し出されたリスカの指にすり寄り、頭を押し付けた。ご免ねご免ね。
 こういう時こそセフォー、問答無用にリスカを抱えて、連れ戻してくれればいいんですっ。セフォーの強引な行動は仰天することも多いけれど、結果として、いいことだってあるんだ。
 でもセフォーはただ静かに、外を見ているばかりだった。リスカが目を合わせてくれないからかな?
「どこか、見たい場所は?」
 フェイが困った様子で食卓に頬杖をつき、ずっと大人しいままのリスカに聞いた。
 リスカはお酒の入った杯に口をつけたあと、「いえ」と短く苦笑して、やっぱり顔を上げなかった。
 あああ、どんどん悪い方へと事態は進んで行きます。
「我が花の妖精は、ご機嫌斜めかね?」
 椅子から降りたツァルさんが寂しそうな顔をして、ぎゅむとリスカに抱きついた。それでもやはりリスカは「いえ」と答えて、静かな笑みを乗せるばかりです。
「あれが、生け贄の女性達を吊った祭壇だろうね」と、ジャヴが外に視線を向け、皮肉そうに言った。
 この露店から、人身御供となった女性達を捧げるための大きな祭壇が見えるんです。今はそこで、花を飾った踊り子達が、降り出した雨にも負けず華麗な舞いを披露しています。
 雨は、やみそうにないのです。
「生け贄?」
 フェイが不思議そうに、ジャヴへ視線を移した。
「冬華祭の汚点であり原点さ」
 ジャヴはどこか自嘲を含む微笑みを見せた。
「もう――戻りましょうか? 雨はきっと強くなるでしょうし」
 帰宅を促すリスカの穏やかな声に、皆が振り向く。
 リスカ。
「今日はありがとう」
 嬉しくなんてないのに、リスカはとても礼儀正しいのです。
「いけない殿方達だね。可憐な花の娘を喜ばせることすらできぬ木偶の坊だ。いっそ雨を消すために松明の身代わりとなって燃えたらどうだね」
 手厳しいツァルさんの声に、フェイもジャヴも、沈黙した。
 セフォーは先程から、祭壇の踊り子を眺めたままです。
「リカルスカイ君、君がいつものようにあわあわと面白がってくれないと私は嫌だよ」
 うん、これはきっとツァルさんなりの励まし方です。
「ツァル、久しぶりにあなたに会えたので、私は嬉しいですよ」
 リスカの言葉はいつも優しくて、だから皆、色々なことを見過ごして甘えてしまうんだよ。
「いやいやそれは勿論当然のごとく天使の微笑を持ち味とする私にこうして会えたことは至福の喜びとなろうが、折角の祭りではないか。花の宴はやはり花の妖精が主役となって、そこらの薪としか活用できぬ愚かな殿方約三名を、棘をばらまき準備万端な坂道から突き飛ばすがごとくにちょいと指の先で翻弄せねば、それこそ麗しい純潔の花姫の名がすたるというものではないかね?」
 しかめ面で嘯くツァルさんの様子に、くすっとリスカは笑った。
「ふむ、神々ですら驚嘆する聡明な私としたことが、ぬかったものだね。祭りの一言にこの純粋な胸がときめいてしまい、ついつい誰もがひれ伏すほどの美少女へと姿が変わってしまったのだから。もし以前の、美の乙女すら一目で恋の虜になる端整な美男子の姿であれば、そう、今すぐ君の手を取り月も陰らすそのたおやかな姿を雨よあられよと賞賛して果実のごとき唇に口づけの一つでも」
「こらこら」
 とジャヴが呆れたように突っ込みを入れる。
「お前も、性別を偽っているのか?」
 何だか疲れた様子でフェイが訊ねる。
「何かね? 君もしや、私という希有な宝石を覆う神秘の帳を開いてそっと覗こうという気ではあるまいね? 何だね随分急な求婚ではないか。やはりここは世間の紳士淑女の例を見習い、ほのかに頬を染めつつ道ばたで偶然の邂逅を果たして熱い眼差しを刹那交差させ、その悩ましき夜に一人恋情を伝える恋文に心を預けるべきではないだろうか。いや君がどうしてもと望むのならば、よし、私も誠心誠意その激しい思いに即刻答えようではないか。ふふふ若さとは罪なものだ」
「待て、どうしてそんな話にすり替わる。第一誰が求婚したのだ」
「やれやれ、星より輝く美少女を前にして誘惑一つできぬとは、何と不粋な!」
「なぜ、男か女か分からぬ者を口説かねばならぬ」
「ほう、では誰ならば口説けるのかね?」
「誰……」
「ふふん、それ見るがいい。口説き文句の一つも出ぬ騎士など騎士ではない! そのような調子では一生、白馬にまたがり花園を駆ける資格はないぞ!」
「何だその白馬というのは!? お前、先程から発言が無礼だ」
「ほほほう、弁舌に自信があるのか。そら、我が麗しの花姫を讃えてみるがいいね。木偶の坊ではないと証したいのならば諸君、花姫のかんばせに、清らかな湖が見える森で機を織る乙女のごとくに夢見る微笑みが浮かぶよう、さあ賛美と祝福の言の葉を降らせるがよい。それができぬというならば、私が真心込めて木偶の坊一号、二号と愛称をつけてさしあげよう」
 ツァルさん、それは脅迫だと思うよ。
 僕ははらはらと成り行きを見守った。違うよツァルさん。リスカは強制された言葉なんて、きっと欲しくないよ。
 フェイは絶句して、顔を微かに紅潮させていた。
 ねえセフォー、こういう時はいつもリスカを無理矢理救ってくれるのに。今日はどうして黙っているの。
 僕はセフォーの服の袖をつくつくと一生懸命引っ張った。だけど、セフォーは、何か気になるものを発見したのか、どことなく厳しい目で外を見ていた。何があったのかな?
 僕は何気なく、セフォーの視線を追おうとした。その時、凄く凄く……嫌な雰囲気がして、僕は絶対にセフォーが見ている何かを、目にしては駄目だって気づいた。だから、僕は慌てて他の方を見た。ちょうどジャヴが優雅に指を組み合わせて、奇麗な微笑を浮かべ、リスカを覗き込んでいた。
 それにしても、とにかく周囲の注目を浴びているような気がします。
「他の男がいる前で、君を讃えるわけにはいかないさ。君の素敵な所は、私だけの胸に留めておく」
 さ、さすがはジャヴっ、見た目を裏切らない、女の子の心を確実にくすぐるような言葉です。
 リスカはちょっと顔を引きつらせた。なぜか、微妙に目元が赤いのはどうして?
「そう、昔から――君は素敵だったよ」
 昔?
 ジャヴは、リスカの過去を知っているのかな?
 リスカははっきりと狼狽して、益々俯いてしまった。
 僕はセフォーを呼びたかったけれど、話しかけてはいけないことが分かっていた。だって、セフォーはまがまがしい何かをひたと見据えることで、牽制していたんだ。このお祭りには相応しくない、凶悪な、怖い存在。
 他の人は誰も気づいていないけれど。うん、普通の人は……たとえ優れた魔術師でも、接近されない限り察知できないと思う。
 ああ、と僕は気づいた。
 この雨。
 不自然な、唐突に降り出した雨。
 水。
 水を操る、怖い存在。
 僕は、恐怖で、羽根を震わせた。
「小鳥さん?」
 リスカリスカっ。
 僕は勢いよく、一番安心できるリスカの首筋に潜り込んだ。
 リスカは怪訝そうな空気を漂わせつつも、怯える僕の羽根の中をそっと指先で撫でてくれた。大丈夫、大丈夫、セフォーがなんとかしてくれるはずだよね?
 僕は震えながらリスカの首に身を寄せて祈った。
 何やらジャヴとフェイとツァルさんが不可思議な言い争いをしていたけれど、僕には耳を傾ける余裕がなかった。
「セフォー?」
 リスカがふと不思議そうにセフォーを呼んだ。
 いつもなら、リスカが呼べば必ず振り向くセフォーが、雨の向こうを凝視したまま視線を動かさない。
 あのセフォーを、こんなに警戒させる巨大な存在が、近くにいるんだよ、リスカっ。
「――こんなに見目麗しくか弱い私を鞭のような品のない台詞で責めるなんて!」
 とツァルさんが声を張り上げ、よよよとリスカにしがみついて泣き崩れた。知らない人が見ると、まるでフェイとジャヴが、稚い可憐な美少女を虐待していると思えなくもありません。
「つ、ツァル?」
「ああリカルスカイ君、今の彼らの酷い言葉を聞いたかね? 私はもう悲しみという悲しみでこのいたいけな心が破れてしまいそうだよ」
 リスカは困惑した表情で、しがみついてしくしく泣き出すツァルさん(うん、僕は嘘泣きだと思う)の頭を撫でている。リスカは自分より小さなものに、とっても甘いからね。でも、その人、お友達のツァルさんだよ。
「いじめてはいけませんよ、ツァルはこう見えてとても繊細なのですから」
 とリスカが少し難しい顔をして、頭を抱えるフェイとジャヴをたしなめた。
「そうともそうともっ」
 目にいっぱい涙をためたツァルさんが、深く頷く。
「どう見ても、そいつは嘘泣きをしているだろうが」
「私もそう思うけれどね、リル」
「リカルスカイ君、聞いたかい? 何て罪深い殿方達だろうね!」
「ああ、ほらツァル、泣かないで」
 よしよし、とリスカが、子供のように訴えるツァルさんを撫でて、丁寧に涙を拭ってあげている。
 どさくさに紛れて、ツァルさんはリスカに抱きついています。ツァルさんの本当の性別はどっちなのかな?
「おい、離れないか!」
 フェイがちょっと怒った顔で、リスカにすり寄るツァルさんを睨んだ。
「ふふふん、美少女二人の戯れの構図だよ。目の保養になるではないか」
 フェイが何だか怖い表情を浮かべて席を立ちかけた時。
 急にリスカの頭上に影が落ちた。
「なあ、お前娼婦か? 遊んでやろうか?」
 ああああ、こんな緊迫した状況の時に、酔っぱらいさんが絡んできました。
 とても大きくて変な弓なりの刀を下げている男の人です。人相、悪いです。この巨体の男性の背後には、やはり似たような格好の男性がいました。ううん、数で打ち勝とうという狡い魂胆だ。
 リスカはぎょっとして振り向き、さっとツァルさんを庇うように抱きしめた。いつの間にかツァルさんは、リスカの膝の上に座って、いい位置を確保していました。
 巨体さんは、ツァルさんを見て、何だかとても変な笑みを浮かべた。僕、この人達、嫌です。
「わたし怖いわ、リスカっ」
 と、びっくりするような可愛らしい声を上げたのは、膝の上でくつろいでいたツァルさんだった。ふるふると震える姿は、この場にいる全員の保護欲をかき立てるほど愛らしかった。す、凄い演技派だよツァルさん。
 リスカはもしかして騙されたのか、怖がるツァルさんを守るように、きりっとした澄んだ目で巨体さん達を見上げた。あのう、リスカもこの人達に狙われているんだよ?
「どうぞ席にお戻りください」
 格好いいよリスカっ。とっても毅然としています。
「お前は男か? いい形をしているじゃないか」
「席にお戻りなさい」
「いやーん怖い助けて!」
 ツァルさん、疑って悪いけれど、本当は面白がっていませんか?
 尊大な歪んだ笑みを浮かべた巨体さんが無造作に腕を伸ばして、静かな眼差しで見返しているリスカに触ろうとした。
 ああっ、僕のご主人様に何するの!
 僕が怒って鳴いた瞬間、フェイとジャヴが同時に立ち上がった。
 す、凄い存在感です。
「誘う相手を間違っているのではないか?」
「下種め、不愉快だ、去れ」
 二人は同時に言い放った。一人で巨体さん達を追い払おうとしていたリスカは、ぽかんとした。
 店中の人達が注目しているから、去れと拒絶されても、巨体さん達も体面にかかわるらしくてあとにはひけない様子だった。でも、この二人には、かなわないような気がします。騎士と魔術師の組み合わせって、なんだか凄いです。
 にやにやと不謹慎な笑みを浮かべているのは、ツァルさんだった。やっぱり嘘泣きだったんだね。
 あきらかに冷ややかな顔をするフェイとジャヴを見て、巨体さん達は侮辱されたと感じたらしく、いきり立った。
 ああ乱闘に!? と店中の野次馬さん達が、次の展開を予想して手に汗握った時。
「馬鹿者」
 ごん、と痛そうな鈍い音がした。
 巨体さんの頭を酒瓶で背後から殴った人がいたのです。
 わ、あなたは!!
「揉め事を起こすな」
 そうして巨体さん達をひと睨みする、この男の人。
 以前に会った、情報屋のご主人さんです!
 なぜか巨体さん達は、ご主人さんの登場に驚愕し、血の気が引いた顔ですごすごと引き下がりました。ご主人さん、もしかしてとても強いのかな?
「あっ」
 とリスカが指をさして、どきまぎした様子でご主人さんを見上げました。
「何だ、やっぱりお前か。まさかと思ったが」
「どどどどうして、あなたがここに」
「何だ、俺が祭り見物に来ちゃいけないのか」
「べ、別にそんなことは」
「日増しに挙動不審だな」
 ぐっとリスカは息を呑み、目を泳がせた。前にも思ったけれど、口達者なこの人には勝てないよリスカ。
 フェイとジャヴさんは気の抜けた顔で、あっさりと巨体さん達を退場させたご主人さんを見ていた。セフォーはこのやりとりには参加せず、まだ外を凝視しています。
「ほう?」
 と面白そうにご主人さんが、リスカ達を見回した。
「何です、その意味深な笑いは」
「意味があるから笑うだろう、普通は」
「ううううっ」
「似合うじゃないか」
「……え?」
 ぐりぐりとリスカの頭をご主人さんは撫でた。
「そうか、お前も色気づいたんだな」
「な」
「いいじゃないか、たまには華やかに見えて。似合っているさ」
 僕、ご主人さん大好きになりました!
 そうなんです、こういうさりげない一言、これですっ。
 ほら、リスカの顔から、仮面が剥がれ落ちる。
「おう、立派な男娼に見えるぞ」
「……」
 でも、一言多いです。
「ばばば馬鹿なことを言わないでください」
「照れるな照れるな。どうだ一晩」
「何の一晩ですっ」
 ああああ今、僕はご主人さんのことを尊敬したのに。
「無礼な。その者、男娼ではない」
 怪しい会話に腹を立てたらしいフェイが、わたわたしているリスカの側に立った。
 自分の身体を盾にしてリスカを庇おうとするフェイの様子を見て、ご主人さんはもうとびきり愉快そうな笑みを浮かべました。
「ほう?」
「何者だ」
「俺は、さて。これとはまあ、それなりに懇意にしている男さ」
 わざとです。わざとそんな煽るような言葉を!
 ご免ねリスカ、この状況で、僕は役に立たないよ。
 ツァルさんまでそんな、わくわくと好奇心を宿した顔をして。
「どういう意味なのだ」
「意味かい、ははははっ」
 ご主人さん、老獪です。
「リルとはどのような関係でしょう?」
 笑っているけれど実は全然笑っていないジャヴが、僕は怖いです。
「おやめください!」
 必死なリスカに、ご主人さんは間違いなく陰謀を秘めた目で呼びかけた。
「おい」
「な、何です」
「で、誰が本命なんだ?」
「はっ?」
「この間、媚薬をほしがっていただろう。情死を考えた男は、こいつらの中にいるのかい?」
 僕にははっきり、リスカの内心の絶叫が聞こえた。



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