【花よりも:4】
ご主人さんの魔の手から脱走……逃亡したあと、僕達は祭壇の側に張られた天幕の下にいました。
何だか雨足が益々強くなっていて、さすがに踊り子さん達も舞いを中断し、幕の中に避難していた。
「参ったな」
目を眇めて、暗雲が立ちこめる夜空をフェイが苦々しく見上げていた。
天幕の下で雨をやり過ごす人々も、フェイと同じように嫌な夜空を見上げて落胆している。
「花は――降らないでしょうね」
リスカがどこかに感情を置き去りにしたかのような遠い目をして、ぽつりと小さく呟いた。
その時、今まで沈黙を守ってきたセフォーが身動きした。
「セフォー?」
セフォー、どこ行くの?
さっと白い長衣を翻して皆に背を向け、迷いなく天幕から出て行くセフォーを、僕は驚きつつ呼び止めた。
どうしたの?
「セフォー、どこへ……」
数歩追ってきたリスカが両手を組み合わせて不安そうにセフォーを見上げている。
「少し」
説明になっていない端的な言葉を紡いだセフォーは、一瞬だけリスカと目を合わせたあとすぐに顔を背け、踵を返そうとした。僕はとても迷ったけれど、セフォーについていこうと思った。
と、セフォーが動きをとめて僕を見つめた。その目が、残れ、と言っていた。
僕はかなり瞳の威力に押されて心臓が冷たくなったけれど、セフォーの言いたいことは分かった。
ここに残って、リスカを守れって言っているんだねセフォー!
だとすると、セフォーが向かう先は。
僕は一度セフォーの髪をつついた。
大丈夫、大丈夫、セフォー?
セフォーは他の人の助けを必要としないくらいとても強いけれど――でも、たった一人で、リスカに何も言わずに行ってしまうの?
「白き伝説は、我が花姫を置いてどこへ雲隠れするのだね?」
セフォーが一度、唇を尖らせて不満げに訊ねるツァルさんを見た。その冴えた視線はすぐに逸れて、ツァルさんの背後に立っているジャヴを貫く。
セフォーに無言でじっと見られて、ジャヴは怪訝な顔をした。ちょっと顔が強張っているよジャヴ。
うん、きっとこの中でセフォーの次に強い力を持っているのはジャヴなんだ。リスカから離れるなって、セフォーは注意しているんだよ。
だってリスカは皆の花姫なんです。守らなきゃ駄目なんだ。
セフォーの無言の忠告を受けて、ジャヴはきっと何かしらの異変を感じ取ったんだと思う。少し固い微笑を浮かべて、それでも了承を示すように軽く頷いた。
セフォーは大粒の雨が降り注ぐ夜の世界へ、一人向かって行った。
「セフォーっ?」
リスカが驚いた様子でセフォーを呼んだけれど、すぐに白い後ろ姿は激しいどしゃぶりの雨に掻き消されてしまった。地面に叩き付けられた雨粒がはね、まるで濃い霧のように視界を悪くしていた。
セフォーを追うつもりだったのか、リスカは慌てて天幕から飛び出そうとしたけれど、その前にジャヴが引き止め、身動きできないよう腕の中に抱きとめる。
「何ですジャヴ!」
「これほど強い雨に打たれてしまうと、折角の花も枯れてしまうだろう?」
「馬鹿なことを言わないでくださいっ」
憤って厳しい声を上げるリスカの気を紛らわせようと、ジャヴは意図的に軽い口調で冗談を言っていた。
「私がいながら、他の者を追っていくのかな、君は」
「なな何をっ。手を放してください」
ツァルさんが、大きく動揺しつつジャヴの腕から逃れようとするリスカに飛びついて明るく笑った。
「おお、そうかそうかリカルスカイ君、君の本命は世の姫君の熱い眼差しを一身に浴びる碧色の宝石であったのか」
「な」
「いや、そうはっきり言われると照れるけれどね」
「リスカ! お前はこの魔術師に惚れていたのか?」
「ほう? リスカ、とは。騎士をも花の魅力で虜にするとはううむリカルスカイ君、君もいやいやなかなか」
「何です、その納得はっ」
フェイは唖然としていた。ツァルさんの無邪気を装った暴走に。
ジャヴも可笑しそうに笑っていたけれど、どんなに抵抗されてもリスカを離そうとはしなかった。一度、鋭い視線を、大地を打つ雨へと向けて――。
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あんまり雨が強くて、天幕下に身を寄せる人々が、どうにもならない状況に苛立ち始めていた。
中には雨の中へ飛び出して、天を罵る人達もいた。腹立ちまぎれに祭壇に上がったり、その辺のものを蹴散らしたりして、何だか暴動の一歩手前のような荒んだ状態だった。
一人で行ってしまったセフォーは大丈夫なのかな。
僕はとても心配になった。
セフォーは戦いに慣れていて誰にも負けないけれど……絶対的に万能ってわけじゃないから、傷を負うことだってきっとあるんだよ。
対する相手が、力量的に拮抗する強大な存在ならば尚の事――。
ちゃんと帰ってくるよね、リスカのもとに?
リスカはきつく唇を引き結び、胸の中にたくさんの痛みを抱えているような悲しい顔で、泣き続ける雨空を見上げていた。奇麗な花色の目が濁った空を映しているのを見て、なんだかいたたまれない気持ちになる。
僕はひしひしと押し寄せる不安を振り払うためにも、心細げなリスカを元気づけてあげようと思った。
でも、僕の勇気をくじくように、数人の酔っぱらいさん達が耳障りな罵声を上げつつ祭壇で派手な喧嘩を始めたんだ。
お酒で正常な思考が鈍っているし、この雨でとても鬱憤が溜まっているから、無関係な人々まで喧嘩に便乗して怒鳴り出し、自棄になったような感じで乱痴気騒ぎを始めた。こうなるともう、収拾がつかなくなる。楽しいはずのお祭りの場が、お皿をひっくり返してしまったみたいに乱れ、荒々しい雰囲気に満ちた闘技場へと様変わりしてしまったんだよ。
祭壇の周囲を飾っていたたくさんの奇麗な花が顧みられることなく、いがみ合う人々に踏みにじられていく。ちぎられ、泥に塗れて潰れてしまった花々の残骸。僕はこんなひどい景色を、リスカに見せたかったわけじゃないのに。
ううん、リスカのためです。ここは一つ、僕が皆の喧嘩をとめます!
と自分を鼓舞して飛びかけた僕よりも早く、フェイが雨の中へ飛び出した。
大丈夫なの? あんまり強そうに見えないよフェイ。
という、僕の心配は杞憂で終わった。
フェイは、祭壇上で暴れる酔っぱらいの数人を、剣を使わずに素手で叩き伏せたんだ。さすがは騎士ですっ。
フェイは何やら声を張り上げて、辺りを睥睨したらしかった。雨音が強くて、天幕下に避難している僕達の所までは声が届かなかったけれど、人垣の背後から慌てたように数人の騎士らしき人が這い出てきた。うん、きっとフェイは、暴動をただ傍観していた職務怠慢な見回りの騎士さんを呼びつけて、叱責しているらしいのです。
なかなか凄いですフェイ。僕はとても見直しました。
立派な態度に感心したら、フェイは別の天幕に避難していた奇麗な踊り子さんの元へ足を向けた。うううん、横殴りの雨のせいで、フェイ達の細かな表情までは見えません。
何をしてきたのか、フェイはすぐに踊り子さんの側を離れ、小走りでこちらへ戻ってきた。髪も衣服も海の中へ飛び込んだかのように、びしょ濡れだった。
「お疲れ様」
ジャヴがにこりと笑って、フェイを労った。
フェイは軽く頷き、額にはりつく髪の毛をうるさそうに払ったあと、リスカへ向き直って、手にしていたものを差し出した。
それは、踊り子さんがしていた花冠だった。
「この雨では、花を降らせることはできまい?」
僕は凄く凄く、フェイを見直したっ。
驚くリスカの頭に、フェイは花冠をそっと乗せた。
「その頭、先程、どこぞの男にいじられて、乱れていたゆえ、隠すにはいいだろう」
とか何とかぶっきらぼうにいい訳をするフェイだったけれど、本当は照れているのか、微妙に目が泳いでいるねっ。
ほら、ツァルさんも星が飛ぶほど目をきらきらさせてにやっと笑っている。
「いやいやいや、千の宝石よりも瑞々しく命を誇る花の冠で我が妖精を飾りたいという君の熱い想……」
「馬鹿者!」
フェイが低く叫んで、ツァルさんの口を塞いだ。思い切り渋面を作るフェイの顔が少し赤い。
ツァルさんとフェイは何だか仲良く騒いでいた。いえ、もの凄い比喩を駆使するツァルさんを、フェイが追いかけ回しているんです。
「仲睦まじいな、君達」
罪のない笑顔で、ジャヴが言った。リスカはまだ顔色が悪かったけれど、それでも優しく微笑んでいた。
「誰と誰が睦まじいのだ」
「嫌だね君、私のような類い稀中の類い稀な美少女と、さりげなく女性扱いに慣れているとしか思えぬ騎士の君に決まっているではないか」
「だから待て。お前の性別も分からぬのに、なぜ懇意にせねばならぬ」
「こだわるねえ」
「当たり前だ!」
「ううむ、私はね、以前は美しい男性だったな、確か。その前は妖艶な美女。その前が老人の姿で、いやいやその前はうら若き娘の姿を」
そんなに姿を変えているんだねツァルさん。
「今となっては、もう自分の性別などどちらだったか、さて」
そ、そんなあっさりと。
「どちらであっても、あなたはあなたですよ」
リスカが労るように、ツァルさんに言った。
ツァルさんは、とても嬉しそうに、リスカに飛びついた。
「そら見ろ! 我が友は些細なことなど気にしないぞっ」
フェイは、もういい、という妥協とは違った、虚しさ漂う諦観の表情を浮かべていた。
ああそうなんです、きっと、ツァルさんは響術師だから、その時の精神状態によって、不本意な姿に変わってしまうんです。誰だって、独り言を漏らす時はあるもの。心がこもった何気ない独白に、否応なく魔力が注がれてしまうんだ。
砂の使徒っていうことは、やっぱり枷になるんだね。
僕はリスカの頬に嘴を寄せた。大丈夫大丈夫、リスカが何であっても、僕は変わらず大好きですっ。
「うむ! 花だ。やはり花がなくてはいけないのだよ」
突然元気よく、ツァルさんが叫んだ。
「ツァル?」
「リカルスカイ君、ここに有能かつ容姿端麗な術師が揃っているというのに、ただぼんやりと空を見上げているなど言語道断。最早神に対する冒涜ではないか。これが許されると思うかね、いや許されない。何より私がつまらない!」
「で、ですが、ツァル」
「この美貌の前には、雨神すらもひれ伏すのだ!」
リスカから離れたツァルさんは、ぐいぐいとジャヴの手を引っ張った。
「そら、湖面よりも麗しい碧の貴石よ、今こそその力尽き果てるまで解放し、空を拭うがいい」
言っていることがむちゃくちゃですツァルさん。
「空を?」
ツァルさんに引きずられて唖然とするジャヴが、一度空を見上げた。
「そうとも。我が友に対する君の情熱とこの雨雲のどちらが厚いか、さあ試すのだ」
「ツァルっ。何ですかそれは!」
「いけないねリカルスカイ君! 麗しの乙女はこういう時、薔薇色に頬を染めて、どうぞわたくしのために月を取り戻してくださいまし、と言うべきなのだよ」
ツァルさんの真剣な言葉に、くすっとジャヴが笑った。
「なるほどね」
「なっ、なっ」
「そうだな、彼だけに、全てをまかせるのは面白くない」
「……彼?」
リスカが戸惑いを秘めた目でジャヴを見つめた。
そうです、今どこかで――戦っているに違いないセフォーに、全部を背負わせては駄目なんだ。
「では、致そうか」
ジャヴは、リスカに向かって優雅に一礼したあと、颯爽と雨の中へ足を踏み出した。
「お待ち下さい、ジャヴ!」
「悪いけれどリカルスカイ君、その花冠、借りるよ」
ツァルさんが、ぴょんと飛び跳ねて、リスカの髪を飾る花冠を取った。
「え? ええ?」
「私が私である由縁――素晴らしき響術師の神髄を、今こそお目にかけようではないか」
と、ツァルさんまでが声を上げて笑いながら、ジャヴを追った。
「何です何です、皆!」
「お前は、ここにいろ」
フェイはとても不機嫌そうに雨の中へ飛び出した二人を見送ったあと、狼狽するリスカの手を取った。
「え? な、何ですか一体」
「魔術師の力、見てやろうではないか」
フェイが呟いた瞬間――
濡れた大地に立ち尽くすジャヴの周囲の空気が、急速に変貌した。
魔力の発動ですっ。
ジャヴは集中している様子で目を閉じ、詠唱の言葉を紡いでいます。
支配を告げる言葉を受けてどんどん大気が変化し、清浄な風が渦を巻き始めた。悪しきものを払拭する澄んだ風の精霊の衣。邪悪な意思を匂わせるこの凄まじい雨を、その透明な衣で少しずつ弾いてゆく。
でも。
高等魔術を操るジャヴの魔力が、強固な盾を前にしたかのように押し戻されている。聖なる風の守護では太刀打ちできない強大な力が介在しているんだ。
セフォーはきっと、位が高いに違いないジャヴの魔力もかなわぬ相手と、今対峙している。
いけない、いけない。その巨大な何かの名を口にしては、いけないのです。
名を呼べば、振り向かれてしまうから。
頑張れ、セフォーっ。ここでジャヴも協力してくれているよ!
天幕の中の人達が言葉もなく呆然と、生まれいづる神聖な風を眺めていた。ジャヴを中心に雨が拭われて、本当に僅かずつではあるけれど、空気が清められていった。
ふわりと舞い上がるジャヴの髪。術の構築に集中している恍惚とした瞳。大気が風に洗われて、とても鮮明にジャヴの姿が見えた。
長い時間、ジャヴは風を操り続けた。
それでも、空は一向に雨雲の衣を脱ぎ捨てない。
ああ駄目です。このままではジャヴの魔力が先に尽きてしまう。
でも凄い凄いっ。確実に、雨が弱くなってきているよ。
「セフォー」
唐突に、リスカが呟いた。
リスカ自身もなぜ名を呼んだのか、分からないという表情をしていた。
――名は、力になるんだよ。
ほら。
見て見てっ。
一際激しい雷鳴とともに、渦を巻く雨雲が割れる。
ジャヴの風が、息を吹き返したように空を踊り駆けた。
ねえリスカ、夜が蘇るよ!
町を覆っていた不快な気が霧散して、美しい月と星が息を吹き返し姿を現す。煌々とした夜の輝きが、人々を包み始める。
「そろそろ私の出番だね。さあ皆の者聞くがよい。我は見目も性も比類なきほど優れたる言霊の王! 私の声は天を裂き風を愛しみ大地を巡り、生きとし生けるものならずあまねく世界と神々を魅惑の迷宮に監禁いやいや導くのだ」
それはまさか詠唱の言葉なのツァルさん?
でも、ツァルさんの声は魂が引きずられるほど美しく、遠くまでよく響いた。風のあるところ、どこまでも駆ける声。これが、ツァルさんの言霊。
「さあ、見ろ! 優艶の花が、無限の美を謳い舞い降りる!」
ばっとツァルさんが、花冠を天へと放った。
「狂い咲くは祈りの雪、蘇りしは典雅の誓い! 日々に飽いた孤独な神々よ、花姫からの贈り物だ、存分に受け取るがいい!」
ツァルさん、神様に対して、そんな。
と僕もリスカも、威勢のいいツァルさんの台詞に引きつった瞬間、虚空に花が咲き乱れた。
花の雨!
白い、白い雪のような花が、ひらひらと降ってくる。
「これは――!」
呆然とフェイが空を見上げた。
透明な夜に、白い奇跡があとからあとから降り注ぐ。
「幻影……これは、ツァルの作りし幻影です」
リスカが瞠目しながらも呟いた。
「ツァルの声は、人々の心に触れる。この雨を――花びらに見せている」
そうです、ツァルさんが放ったのは、花冠のわずかな花にすぎません。けれども、人々の目には神が祝福の花を降らせているように映るんです。
人々が感嘆の声を上げて、天幕から出てきました。淡い光の粒子をまとう花びらに手を伸ばして、踊るように空を見上げて。
ざわめきが広がって、いつしか歓声になり。
きらきらと降り注ぐ花は、触れれば光を弾いて消えてしまうけれど、それはまるで、幻想世界に存在する美しい光景に見えた。
ああリスカ、花は降ったよ。こんなに奇麗な、奇跡の花が。
すごいねっリスカ!
嵐は花に生まれ変わったよっ。
「ふふふっ、見たかい見たかいリカルスカイ君!」
嬉しそうに飛び跳ねながらツァルさんが戻ってきた。ジャヴも疲労を押し隠して、微笑をたたえながら近づいてくる。
きっと神様も、七人の乙女も、天上で見て喜んでいるよね。
セフォーも、見ているかな?
「二人とも、これを」
リスカは懐から治癒の花を取り出して、お疲れ様のツァルさんとジャヴに渡した。
「少し、お待ちを」
二人の治癒を終えたあと、そう言い残して、リスカは薄い衣をひらりと翻し、天幕を出る。
何をするのかな、と思ったら、リスカは――うん、とてもリスカなのです。
さっき喧嘩をして怪我をした人達に、花びらを渡しているのです。
やっぱり、リスカが誰より奇麗なんですっ。
誰かにお礼を言われる前に、挙動不審な態度でわたわたと逃げ出すのが、リスカなんだね。
僕は、しばらくして戻ってきたリスカに飛びついた。
「よしよし、偉いぞ我が友よ」
ツァルさんが背伸びをして、リスカの頭を撫でた。
「悔しいですからね。私だけ、何もせずに見ているというのは」
リスカはそんなふうに言って、笑った。
「うむ、これぞ愛の絆で結ばれた共同作業」
感慨深げな様子で腕を組むツァルさんにジャヴが苦笑して、それから気がかりそうに晴れた夜空を仰いだ。
「あの、ツァル。すみませんが、その、不可思議な乗り布、いえ、空飛ぶ絨毯を少しの間、私に貸してくれませんか?」
おずおずとリスカが言った。
「ふむ? な、る、ほ、ど」
「やめてくださいその笑いっ」
「よかろうよかろう。何、花姫が戻るまでこの純粋美少女ツァルが、男どもと戯れていようではないか」
フェイとジャヴが何とも言えない複雑な顔で、偉そうに告げるツァルさんを見下ろした。
「リル、お待ち。ここにいた方がいいね」
「で、でも」
そうか、リスカは。
「ごごごめんなさいっ。あとが恐ろしいので、行ってきます!」
リスカは何かすごく誤解しているような言い訳を残して、ひょいと空飛ぶ乗り布に乗った。
慌てるジャヴとフェイの声が聞こえたけれど――リスカを乗せた絨毯はふわっと高く舞い上がった。
「小鳥さん!」
まかせてっ。
僕は乗り布がなくても、羽根があるのでリスカと共に行けるのです。
いざさらばー、という明るいツァルさんの見送りに押されて、リスカを乗せた布は花咲く空を一直線に駆けました。