花炎-kaen-火炎:12


 全身が沸騰するかのように、体温が上がっていくのを感じた。一体何がなにやら、とリスカは一人ぶつぶつと怪しく独白した。自分の中から色々と湧き出てくる言葉に翻弄されている。夢でも見たのだろうか、しかし今のが仮に夢だとすればそれはそれで問題ではないだろうか。突き詰めれば自分の中にそういう願望があったと……とまで考え、リスカは実に女性らしくない潰れた悲鳴を上げた。駄目だ、夢説は捨てよう。
 そうなるとやはり現実だったとなるわけだが、今度は別の意味で焦りを覚える。リスカはぺたりと自分の顔に触れた。フェイはどういうつもりでの行為だったのだろうか。エジの挑発に乗ったのか、それとも花苑の雰囲気に飲まれたのか。相手は町娘を片手間に口説く騎士なのだ、真剣に捉えない方がいい。親しい者に対する挨拶程度の行為だったのかもしれない。
「うぐぐ」
 今し方胸に芽生えた大いなる煩悶は深く考えると動揺しすぎて真っ白になりそうだったため、とりあえず脇に置き、リスカは行動を起こすことにした。もともとこういった問題は苦手なのである。思考を切り替えよう、とリスカは逃げの一手を選んだ。
 酒風呂に浸かっているのではないかと思いたくなるほど鈍い頭を何度か振り、急いで立ち上がる。
 フェイたちを尾行するために、だ。
 ツァルのことも気がかりだったが、こちらは既に時間が経ちすぎているため居場所を探すのは難しかった。いずれ埋め合わせしよう、と心の中でツァルに謝罪する。リスカは嘆息し、視線を虚空へと向けた。
 フェイとエジの会話から推測できることがある。どうやらエジは意図的にリスカを酔い潰すため、多量の酒を飲ませたようだった。そういえば、リスカ自身に興味はないという態度を見せつつも、少し強引なくらいに酒の相手をせよと求められたのだった。しかしなぜ、ここでリスカを酔い潰す必要があったのか。
 エジとの再会については、特に仕組まれたものだとは思えなかった。互いに何らかの意思をもって花苑に訪れてはいるが、出会い自体は偶然だと結論づけてもいいのではないだろうか。
 問題はその後だ。妓王と見たいと言い出したリスカを酔い潰した理由とは。
 さて、その理由については情報が揃っていないために断定できない。ただ、こういう推理くらいは酒でぐらつく頼りない頭でも可能だった。エジとは殆ど接する機会などなかったため、どういった人となりであるかも知りはしない。しかし、大いなる誤解を含んではいるものの、彼の方はフェイを経由する形でリスカをある程度理解しているらしい。なんとも戸惑う話だがリスカをフェイの情人だと認識しているらしいので、花苑の娘に翻弄されているこちらの情けない姿を目撃した時、見て見ぬ振りをするのは哀れであると判断したのではないだろうか。
 リスカを酔わせて足止めしたのち、おそらくフェイと連絡を取ったのだ。あるいはもともとフェイとどこかで落ち合う約束をしていたのかもしれなかった。
 とすれば、何のことはない、彼らが抱く何かしらの問題にリスカを関わらせぬため酩酊させただけであろう。状況判断にすぎぬが、この推量が一番無難で矛盾が少ない。寝た振りをした時耳にしたフェイ達のやりとりからも、何か謀めいたささやかな気配を感じたのだ。彼らは騎士、様々な問題や事件を抱えていて当然だった。
 要するに彼らは一般人であるリスカを巻き込み危険にさらさぬようにという配慮の末、その問題から遠ざけようとしたのではと推測できるのだが、これが正解とはまだ決められない。
 一体、彼らは何をしようとしているのか。
 騎士が取り扱う事件ならば、何の関係もないリスカが不用意に首を突っ込むべきではないのだろう。
 しかし、だ。
 余計なことを考えずにすむよう、今何でもいいので謎がほしいという切迫した気持ちがある。また、中途半端に退けられるのも悔しいものがあるし、何より魔術師とは真理の追求者であったり、などと内心で幾つも言い訳になりそうなことをつらつらと述べてしまった。
 酔った勢い、という弁明も追加していいだろうか。
 たまには己らしくない真似をしてみたくなるものだ。今の自分は全く不格好で歪んでいる。
 リスカは苦笑いを浮かべつつ、素早く着替えた。
 気持ちを立て直したあと、冷静な表情を取り繕い、部屋を出る。大抵の娼館は前金なので、退出時に店の者に見咎められることはない。
 できうる限りの早足で店を出ると、外の世界にはいつの間にか、奥を見通せぬほど濃い夜の色が広がっていた。月や星の色も冴え冴えと、濃い。とうに宵の時刻をこえているらしかった。夜空を仰ぎながら、ふっと溜息に似た吐息を漏らす。夜気に溶ける白い息は束の間、見上げる月を朧にした。
 一時の遊びを求めて出歩く者の数が日中よりも増えており、淡い光を掲げる街灯の下に、さざ波のようなざわめきが満ち始めている。夜に咲き誇る花苑界隈は、最も人出が多く賑わう時間を迎えているに違いなかった。たとえ冬期間であっても、こういった享楽の時間を提供する区画のみは人の気配が失われることがない。むしろ、寂寥感がつきまとう季節だからこそ、人はより愉楽を求めて足を運ぶのかもしれない。
 リスカは外套の前をかき合わせたあと、左右の通りに視線を走らせた。通りをぶらつく人の数が多いため、すぐに彼らの姿を見分けることができず、いささか焦りが生まれる。
 駄目だ、既に彼らは見渡せる範囲外へと移動してしまっているようだ。悠長に着替えなどせず、すぐさま行動を移すべきだったとリスカは歯がみした。
 己の鈍重さを悔やみつつも、このまま素直に追跡を諦める気にはなれなかった。一か八か、どちらかの通りを選び探してみよう。
 直感で左の通りを選び、店々を覗いて冷やかしている通行人の視線を集めぬ程度の速さで足を進めた。先を急ぎながら、かき合わせただけの状態だった外套の前をきちんととめる。昼間よりも随分気温が下がっており、衣服の隙間に冷たい空気が忍び込んでくる。数日以内に雪が降るのではないかという考えが頭の片隅にぼんやりと浮かんだ。
 通りを練り歩く人の間を縫うようにして、リスカは先を急いだ。
 何度か同じ道を通ったりもして確認したが、残念ながら彼らの姿は一向に見当たらない。もしかすると、どこかの店に入ってしまったのかもしれなかった。もしそうであれば、これ以上の捜索は無意味だった。
 リスカは歩く速度を緩め、娼館を出たばかりの時のように星空を見上げて嘆息した。あまり帰宅が遅れると、シアが寂しがる。そろそろ戻るべきだった。
 無念に思いながら、賑やかな通りの角を曲がった時だった。
「!?」
 リスカは驚愕した。
 突然、目前の光景が歪んで見えたのだ。
 しまった。
 術だ。
 何者かが張り巡らせた術に、はまってしまったのだ。
 懐から防御の花びらを取り出して、その術を防ぐ暇はなかった。通りを曲がって一歩踏み出した瞬間に、術に囚われてしまっている。
 リスカは身を硬直させ、忙しなく瞬いた。フェイ達の捜索に気を取られ、周囲の警戒をすっかり忘れていたのだ。だがまさか、人通りの絶えぬ花苑内で大掛かりな術を行使する者がいるなどとは普通思わない。
 賑やかな通りの様子は一瞬で掻き消え、不快な空間の捻れを察した次の瞬間に、なんとも美麗な牢獄というべきか、不審な監禁部屋というべきか……どこか透明な青さを含んだ白い壁を持つ円形の狭い部屋内へとリスカの身は強制的に移動させられていた。緩やかに弧を描く白い壁には、なぜか規則性のある配列で紫や暗色系の透き通った宝石がこれみよがしに埋め込まれている。突然の景色の変化と豪華な宝石の数々に、恐怖を覚えるよりもまず唖然としてしまった。
 幻影の術か、転移の術か。
 いや、その両方を混合させた独自の術だ。結界の役割も果たしているので、分類上ではおそらく、これも防御の術とされるだろう。
 つまり数種の技巧が隠された高度な術であるため、たとえ花びらを操る時間があったとしてもリスカの魔力では太刀打ちできない。
 一体なぜ自分が術の標的に、とリスカは冷や汗をかいた。
 いやまずは現状をよく理解するべきだ。
 もう一度、今度は丹念に室内を観察する。円を描く壁に、出入り口の類いは存在しなかった。天井部分は作られていないが、おそろしく壁が高いため、よじ上っての脱出は不可能だ。その前に、術で構築された空間であることを考えれば、たとえよじ上ることに成功しても、壁の向こうへは行けないのだろう。
 脱出が可能か否かの問題は一旦棚に上げて、次は室内の調度品に焦点を合わせる。
 先程とは異なる意味でリスカは冷や汗を流した。
 何なのだろう、この無意味に華麗な装飾は。
 壁に沿う形でぐるりと、大きめの寝台、文机、長椅子が設置されているのだが、どれも皆、フェイの屋敷で見かけそうなほど高級感溢れるものばかりだった。寝台など、寝転びたいという誘惑に駆られるくらい上質な造りではないか。
 更に言えば、室内は不躾にならぬ程度に、甘いような香りが満ちている。
 惚けそうになったが無理矢理気を取り直し、室内の中央に置かれている不審なものに注目する。脚の長い小卓に繊細な小皿がぽつりと置かれており、細い蝋燭が立てられていた。幾分かの躊躇のあと近づき、試しに軽く息を吹きかけてみたが、消えぬ。この蝋燭がどうやら術の芯となっているらしい。
 リスカはもしゃもしゃと髪をかき回し、唸った。さしあたっての危険はなさそうな雰囲気なのだが、一体どういうことなのか。
 もしや機嫌を損ねていたツァルが嫌がらせのために罠を作っていたとか、と一瞬友を疑いそうになったが、どうもこの部屋が醸し出す異様なほど華麗な雰囲気は響術師の好みとわずかにずれがある気がする。悪戯好きなツァルであればもっと奇抜さに満ちた仕掛けを選ぶだろう。
 そこでリスカは冷静さを取り戻した。
 この魔力の気配は、一体。
 目を見開いた時だ。
「お気に召したかな、リル」
 振り向いた先には、美貌の魔術師であるジャヴが上品な微笑を浮かべて立っていた。
 
 
「……ジャヴ」
 リスカは頭を抱えたくなった。
 お気に召したか、と聞かれたことから、不意をつくようにして背後に現れた彼が間違いなくリスカをはめる目的でこの大掛かりな術を行使したのだと分かる。
「なぜですか」
 脱力しつつたずねると、ジャヴは冷たく見える表情を浮かべて己の肩にこぼれ落ちた髪をさらりと払った。
「なぜも何も、見たままだ」
「その見たままの意味が、全く理解できないのです」
「理解できぬのは、君の知恵が足りないためではないか」
 問答とはいえぬ屁理屈に、リスカは溜息を落とした。自分の周囲に集まる者はどうしてこうも皮肉であったり謎めいている返答を好むのか。しかも嬉々として戯れ言を口にし、相手の反応を楽しむのだ。だが、相手の動揺を誘うためだけに紡がれたかのような他愛ない戯れ言の中に、一滴の重要な真実を含ませたりするのだから一層厄介である。いや、人のことは言えないか。自分自身も少しばかり捩じれた感覚を持っている気がしなくもない。
「知恵というのは、他者の好意や親切によって開花する時があるとは思いませんか」
「思わないね。本人の能力と意識の高さの問題ではないか」
 なんて意地悪な人なのだ。
 恨めしい思いで見つめると、ジャヴは軽く笑い、長椅子に腰掛けた。優雅に脚を組んで肘掛けにもたれかかるその姿がやけに整っており、更に恨めしさが募る。
「私が親切な者に見えるかな」
「ええ見えます。とても見えますとも。あなたは気高く慈悲深い」
「そう。言われ慣れているので、特に嬉しくはないが」
 絶句してもいいだろうか。
「あなたがなぜ、このような真似をするのでしょうか」
「私らしくなくて、たまにはいいだろう」
「よくありません」
「認めたまえ。私だとて、時には別人のように振る舞い、くだらぬ稚気に浸りたくなる」
 稚気ですか。罪のない稚気ですむのか、ひたすら不安が募る。
「君も座ったらどう」
「座れば、何か進展があるのでしょうか」
「忠告する。可愛げのない女性は、真実から遠ざかるものだ」
 色々と叫びたい思いが胸中で渦を巻いていたが、リスカは必死に耐えたあと、大人しく彼の横に腰掛けた。
「ジャヴ」
「何かな」
「ここはどこなのですか」
 真っすぐに質問を放つと、ジャヴはおやというように片眉を軽く上げた。
「いいだろう、この部屋。気を和らげる香を使っているのだよ。最近、貴婦人の間では香蝋というのが流行していて、様々な形の蝋燭が作られているそうだ。無造作に燭台にさすなど、品に欠ける。美しい杯や器を使用して、浴室などでも蝋燭が漂わせる香りを楽しむのが風雅というものだ」
 全然質問に答えていませんよ、とリスカは内心で反論した。
「私が浴室で香りを楽しむ優雅な貴婦人に見えますか」
「全く見えないね。だからこそ、ここでその香りを楽しませてあげようと心を砕いたというのに。親切とはかように見え難いものであるらしい」
 この人はもう、どうすればいいのだろうか。
「この結界は、誰のためのものですか」
「君のためだよ」
「誰が関わっているのです」
「君が今、関わっているじゃないか」
 焦れてきた。
「出してください」
「断る」
「なぜ閉じ込めたのですか」
「さあ、閉じ込めたい気分だったのかな」
「あなたが私を評価していないのは知っています。けれども、玩具扱いするほどに私は卑俗な存在ですか」
 振り絞るように言うと、ジャヴはわずかに不快そうな色を瞳に浮かべた。
「君、その言い方は己に対しても醜く、私に対しても不誠実ではないか。己を故意に貶めて同情を買おうとする者を、私は軽蔑するのだ」
 向けられる軽蔑が更に心を挫くと、この人は知っているだろうか。
「同情心を煽る以外に、方法はありますか。己の力量ではあなたの術をやぶれないと悟っている。あなたも勿論、私が悟っていると分かっているのです。その上で、他にどうせよと」
 リスカは俯き、両手で顔を覆った。
「あなたは知っている。私が己の術に対し、苦悩していると。実際この力はなんて歪なのか。それを知りながらもあなたは術という方法を選び、力づくで私を封じたのだ。超えられぬ力をあなたは見せつける。ならば今の私の愚かな振る舞いは、ただしくあなたが望むものでしょう。以前、つまらぬものがよいのだと言いましたね。どうですか、望む姿を手に入れたのでは」
 声を震わせたリスカの腕を、ジャヴが強く掴んだ。リスカはその力に抵抗し、顔を覆い続けた。
「リル」
「それともまだ足りませんか。もっと、乞う姿が見たい? どんなふうに?」
「やめなさい、リスカ」
 厳しい声音と同時に、更に強く腕を引っ張られた。顔から無理矢理手を引きはがされたが、リスカは俯いたまま表情を隠し通した。
「優越感を抱くためだけに術を仕掛けるはずがない。君の動きを――リル?」
 ああ駄目だ。笑みを誤摩化しきれなくなった。
 リスカは微笑んだまま、顔を上げた。
「……引っかかりましたね」
 そう白状すると、ジャヴは一瞬驚き、次いでえらく苦々しい顔をした。
「あなたは慈悲深いと、先程言った証明になりました」
「君は!」
 思わず声を上げたといった様子のジャヴを見て、リスカは笑みを深めた。
 わざと同情を買うような素振りを見せてジャヴの嫌悪を引き出したあと、再び苦しむ姿を演じ、罪悪感を煽ってみたのだ。そういう態度を見せた時、彼がどういった反応をするか、気になったのである。
「全く。可愛げのない女性は真実から遠ざかるという証明にもなったのじゃないか」
 どうやらジャヴは相当悔しいらしい。実に不機嫌そうな顔で悪態をついてくれた。
「そうでしょうか。可愛げがなかったというのに、先程あなたは真実の欠片をこぼしかけた気が」
 本気で機嫌を損ねてしまったようだ。ジャヴはすぐに返事をしなかった。
「すみませんでした」
「君の謝罪には誠意が全く宿っていない」
「本心から詫びているのです」
「今日一番の戯れ言を聞いた」
 術師というのは不思議なもので、理を重んじるくせに、どこか子供じみた頑な面を持つ。
「私が謝罪しているのは、あなたが術の正体を語っていたことに、すぐに気づかなかったという点です」
 下手に出てそう言うと、ジャヴは冷たい目でこちらを見返した。やれやれ。
「蝋、の中なのですね。ここは」
 先程ジャヴは唐突に、この部屋についての説明をした。つまりこの空間がどういった場所であるのか、彼は誤摩化さずにきちんと答えていたのだ。
 小さな美しい杯の中の蝋燭。以前彼の師であるシエルが築いた無元の結界と似て非なるものだ。存在しない空間を小さな蝋燭の中に構築し、更に転移の術も加えている。道理で壁が青白いわけだ。蝋燭なのである。おそらく壁の蝋燭を削れば、器となっている杯の内側が現れるのだろう。
 さすがは正規の魔術師だ。下位の魔術師には操れぬ高等魔術だった。
 しかし、この華美な装飾はどうかと思いますよ、とリスカは内心で呟いた。
 まあ装飾はともかく、真実を遠ざけていたのはやはりリスカの方だったらしい。術の説明を受けた時、すぐにそれと気づかず苛ついた態度を見せてしまっため、その後の問いには答えてくれなかったのだ。
「この空間が何なのかは分かりました。ではなぜ、私を閉じ込める必要があったのでしょう」
 先程ジャヴは、こちらの動きを封じるため、と言いかけた。
 なぜ封じたのか。
 視線と言葉の両方で返答を求めると、ジャヴは最初、無表情だったが、不意に奇麗な微笑を見せた。すこぶる嫌な予感がする。
「決まっているだろう」
 魔術師の機嫌は損ねるものじゃない、とリスカは激しく後悔した。
「あのぅ」
「君、言っていたじゃないか」
 なんですか、その勝ち誇ったような表情は。
 怖じ気づくリスカに、彼は麗しい笑顔で言い放った。
「冬期間、休養が必要なのだろう。疲労が溜まっているだろう君に、この空間を贈らせていただいたと考えたまえ。ゆっくりするといいよ。何しろ、誰も訪れないから」
「ひ」
「ああ、言っておくけれど、君の破壊神であろうとも、この空間は見つけられまい。知っているかな、この香蝋は少し特殊なものでね、気配を完全に断ち、外部に漏らさない。元々蝋燭は、なぜか術を遮断するのだよ。その原理はまだ十分に解明されていないのだがね。我が師が論文を書いていたことがあったな。興味深いものだった」
「あの、ジャヴ。本当に、私が悪かっ……」
「とはいえ、私が外の世界をうろついていれば、君を隠したという事実は破壊神殿に知られてしまうだろう。そうなれば間違いなく君の居場所を喋らされ、ついでのように殺される危険がある。一番いいのは、私自身も結界内に入ってしまうことだ。これで完全に君の居場所は誰にも探せない」
 リスカは卒倒したくなった。
 今の言葉こそが、本日一番の戯れ言に思えます。



|| 小説TOP || 花術師TOP ||  ||  ||