花炎-kaen-火炎:20


「もともとこの周域を警戒していたためだ」
 エジは淡々と答えた。
 警戒、とリスカは首を傾げた。エジが軽く頷き、手綱から片手を離して、前方に小さく見え始めた町の門影を指差す。リスカは陽光に目を細めながら、自分が生活の拠点としている町を眺めた。冬の淡い光の中、まるで幻影のように儚くたゆたって見えた。
 この町は、慎重な警護を必要とする王都区画とは異なり周辺を城壁のごとき堅牢な石垣で囲っているわけではない。だが不思議なことに、各方位に敷かれた馬車道に合わせて、町の出入り口に相当する箇所には堅固な門が構えられており、昼夜問わず兵士を常駐させている。少数で訪れる旅人に対してはそれほど厳しく身元確認を行わないが、大型の荷を積んだ馬車などは都の通行所並みに物々しい細かな検閲を受けなければならない。
 様々なことに忙殺されて毎日を送っていると見過ごしてしまいがちになるが、こうして外部の視点に切り替え冷静に観察すると実に不可解な様相を持つ町だと気づかされる。移り住んだ当初は、貴人が多く在住しているために警備も厳重なのかと納得していたが、よく考えるとこの点からして不自然なのだった。都から遠く離れた辺鄙な町だというのに、雅と贅を好むはずの貴人がなぜ数多く暮らしているのか。
 それに他区域の町村よりも規模があり、近辺に豊かな自然も多いので、物資の面で生活に不自由することは殆どない。ここは衆目をさけたい科人が身をよせる最後の地であると同時に、目まぐるしく情勢が変化する煩雑な都暮らしの中で大事な何かを喪失した貴人の配流の地でもあるのだろう。こうして時折、魔種の類いも出没する。明確な危機が真横にまで迫っていると知りながらも居を移さず、地にしがみつくようにして生活を続ける人々。単に気性が剛胆であるからなどと結論づけるわけにはいかない深刻な事情でも隠されているのかとつい穿ってみたくなる。いや、何でもかんでも懐疑的に考えてしまうのは悪い癖だ。無責任な理由づけなら好き勝手にいくらでもできる。ただ納得したいがためにだ。町は町にすぎず、その在り方に複雑な過去や理由を巻き付けるのは人なのだから。
 リスカは逸脱し始めた思考を元に戻すため、一度視線を空へ逃がした。
「なぜ警戒を」
 普段以上に荷馬車の通行を警戒していたのだろうが、その原因が分からない。いや、リスカたちが転移後に偶然乗り込んだ荷馬車には、違法であるはずの異種混合生物が積まれていたではないか。
「不法な見世物小屋というべきか。見世物自体は違法ではないが、取り引きを禁じている異種混合体が町中へ運びこまれるようになった。国の許可なく人為的に生み出された特殊生物に関しては運送手段や取り扱いの手順以前に、見世物の対象、そして売買対象とすること自体が違法だ。しかも、獣同士の混種ではない。人と、獣。あるいは無機との混合。これは倫理的にも決して許されない」
 人と獣。見世物。
 強悍な敵を前にしているかのような厳しい目をして町を見据えるエジの横顔をリスカは盗み見た。
「人と獣の血を持つ混種やその他の異形、これら哀れな生き物を意図的に作り出している者がいる。急ぎ取り締まらねばならない」
「花苑で起きているという不可解な殺人と関連があるのですか」
 ジャヴの存在を意識しつつ、リスカはあえて何も知らぬふりをし、たずねた。花苑の殺人にも魔族が関係していた。そして混種生物を積んだ荷馬車に、貝百が顔を見せた。繋がりはあるのだろうか。
「さてな、確実な証拠は残念ながら発見されていない。ただし、どちらも花苑に潜む者が関っている。先ほど捕縛した御者の男から何かしら有益な話が聞けるだろう」
 そうか、御者の男は騎士達に無事保護されたのか。
 確証はなくとも、エジはおそらく二つの事件に繋がりがあると感じているのだろう。
 違う、二つではない。
 三つだ。
 花苑の殺人、混種や異形を売りとした見世物、そしてシエルの劇薬。フェイたちは三種類の事件を追っていたのだ。
 ただ、シエルの劇薬については既に解決した。
 ――したのか?
 リスカは視線を転じた。
 ジャヴがすぐさまにこやかな笑みを見せた。
 この三つの事件は、全体が、とは言わぬものの一部がどこかで重なっているのではないか。
 頭の中に、以前耳にした言葉が浮上した。
 リスカは思わず舌打ちしそうになった。
 最初から答えを聞いていたではないか、美貌の魔術師に!
「人とは神の見せ物に過ぎないのか――ジャヴ、あの時からおよそ気づいていたのですね」
 恨めしげな声が出てしまう。
 そう、ある朝に店の前でジャヴと会った時、言われた言葉だ。人とは神の見せ物なのではと。人は神を気取る。人は人の中に見せ物を作る。不法とされる見世物小屋についてを示唆する言葉に他ならない。答えはいつでも最初に提示されているのだ。
「説明しただろう。私はフェイ殿に協力をしていると」
 この人は、本当に!
「気づくのが遅いね、弟子よ。思考は大地を貫く根、閃きは天に走る虹、この天地を一つとして視野におさめるのが知という目……と学徒の教本に載っていたな。いかなる時も教訓を忘れてはならないね」
「誰が弟子ですかっ」
 ジャヴの軽い戯言に思わず乗せられて、言い返してしまった。「遊ばれてるよリスカ」と言いたげなシアの鳴き声が響く。
「では、あの朝に会った者は」
 冤罪にて投獄された時に命の水を与えてくれた囚人の姿が蘇る。精巧な機械を埋め込まれた、哀れながらも美妙なその姿もまた――異形ではないのか。
 舌打ちどころか、大声で色々と叫びたくなった。
「ジャヴ!」
「何かな」
 さらりと明るく言われてしまい、リスカは憤りの場をなくして低く唸った。頭をかきむしりたい衝動に駆られたが、ぐっと堪えて強く手綱を握る。リスカたちを背に乗せて道を進む馬の蹄の音がかぽかぽと周囲に響いていた。呑気と言いたくなるような蹄の音が、荒れ狂う心情をいくらか宥める。リスカはわずかに脱力しつつ思考を巡らせた。
 彼はフェイに協力している。とすればあの朝、店の前でジャヴと会ったことは、これまで考えていたのとはまた別の意味を持つ。精緻な機械人形と化した囚人は、なぜかリスカに恩を感じて食材を届けにきてくれた。ジャヴは捜査の一環として、あの囚人を追っていたのではないか。
 ジャヴとの会話を思い出し、更に低い呻き声を発してしまった。自分はどこまでも誤摩化されたのだ。
「君の想像通りだよ。見世物の対象にされる者の中には、あのように肉体を改造された者も含まれている」
 批判などどこふく風という態度を見せていたジャヴが不意に真面目な顔をした。
「私は偽善者だが、これだけは信じてほしいね。見世物に関しては、以前も今も一切関与していない――何しろ己のことで手一杯だったのでね」
「では、伯爵夫妻は」
「していない、といいたいところだが」
 リスカは目をすがめ、真相を問うべくエジの方へと顔を向けた。
「全く関与していないという可能性は低い。伯爵は特に。事情を詳しくは知らぬ状態で、ただ手引きをしていただけかもしれぬが、罪は罪」
 つまりは、見世物のためとは知らずに人間を調達し閉じ込めていたという意味か。
「フェイ殿はね、君が地下牢から逃がした囚人達を探して保護していたのだよ」
「フェイが?」
 ジャヴの言葉に、リスカは少し驚いた。そういえばリスカはあの時、実際の罪の有無など無関係に自己判断で彼らを解放したのだった。フェイたちには番狂わせと言えるような出来事だっただろう。
「そう。肉体を激しく損傷している者が多い。何らかの形で補償せねばならないと。ところが、なかなか彼らの潜伏場所が特定できなくてね。数人は無事に保護したが、発見されれば再び牢獄に連れ戻されるのかと警戒していた者が多かった。保護した者よりも、未だ行方知れずの者の方が多い」
 ジャヴの言葉に、リスカは顎を撫でて首を捻った。馬上であることを忘れて身体をゆらゆらと揺らしてしまったため落下しそうになり、慌てて姿勢を直す。
「そして不運にも、せっかく自由になれたのに、見世物の催しを計画した何者かに再び囚われた者がいるということですか」
 ジャヴとエジが同時に頷いた。二人とも、同じ動作をしてしまったからといって、そんなに嫌そうな顔をして視線を逸らさずとも。
 二人の険悪な様子に呆れつつ、リスカはしばし口を閉じて思考の波に浸った。得た情報を、頭の中で札のように一枚一枚並べ、組み替える。
 まず劇薬事件と花苑の殺人が先に起きた。どちらが先に発生したのか、現時点において順序はあまり重要ではないと思えたため、保留にする。
 違法な見世物はこの両事件後に催され、更に今後も公開される予定があるようだ。いや、事件以前にも多種多様の違法な催しは限りなくあっただろうが、今回取り沙汰されている見世物とはまた別件なのだろう。見世物にされる者に、リスカと関った囚人がいると既に判明しているのだ。
 フェイはリスカと知り合う以前から二つの事件を追っていた。紆余曲折があり、リスカまでも劇薬関連の関係者となってしまったため、その後の事件でも己の知らないうちに顔を出していたらしかった。
 リスカはそこで一つ、疑問を覚えた。一旦思考の波から戻り、エジに視線を向ける。
「フェイにはあまり詳しく聞いていなかったのですが、牢獄に囚われていた者とは」
 囚人の中には犯罪者もいたというが、伯爵の屋敷につとめていた善良な者たちも多かったのではなかったか。
「最も多い類いの被害者は何らかの形で伯爵と関わりを持ち、およそ罪にもならぬ理由で言いがかりをつけられた者だろうな。伯爵は確かに癇癪持ちであったようだが、それにしても限度がある。おそらく再興時の資金集めとして、誰かに命じられるまま人を監禁していたのではないか。その証拠に、私利私欲に溺れた一部の騎士が加担し、人目を避けるようにして現在は立ち入り禁止となっている地下牢を利用していた」
 一部の騎士の加担――まさか、この町に訪れた無害な旅人なども犠牲となっているのではないかとリスカは憂いた。旅先で失踪したとなれば身内の者の捜査は難航するだろう。
「そういえば、フェイもあの地下牢の存在を知っていましたね」
「伯爵と繋がりのある騎士の口を割らせ、地下牢の場所をおさえた。だがまず劇薬を製造している者は誰か、全体像を理解するためにも伯爵一派の行動を未然に阻止するわけにはいかなかった。フェイに関して言えば都在住の時からフィティオーナ夫人とはわずかに交流があったらしいため、尚更戸惑いもあっただろう」
 それでなぜか劇薬を精製した首謀者はリスカであると疑われてしまったわけか。当時の彼が見せた粗野な振る舞いは、自分への苛立ちなども多分に含まれていたらしい。全容を知るため、目の前の罪から無理矢理顔を逸らすしかないという憤懣だ。
 まあ、嫌疑をかけられたことについての複雑な心情はともかく、伯爵が劇薬以外の犯罪にも関っていた確率はやはり高そうだった。ティーナはもしかすると伯爵が別の罪を抱え更に手を汚しているのに気づいたからこそ、己もあえて泥をかぶる思いで劇薬を使用したのではないか。戻れぬ道を進む師を追ったジャヴのようにだ。
 明るみに出れば決して伯爵は許されない。また、永遠に隠蔽することはできないと悟ったために、あれほど強く死を願ったのだろうか。今となってはティーナの真意を知ることはできない。
「囚われた人々の家族は」
 誰よりやりきれないのは、犠牲となった彼らの家族だろう。
 何気なく紡いだリスカの言葉に、ジャヴとエジは再び似たような反応を示した。今度もまた、二人は嫌そうに互いから顔を背けた。本当に相性が悪い二人だ。
「リル。君が囚われた時、ティーナが会いに来た事があったろう」
「はい」
 あなたとも会いましたね、と内心で呟いたが顔には出さない。
「彼女の後ろに立っていた青年を覚えているか」
 リスカは記憶を辿った。そういえば確かに、青年貴族めいた服装の者がいたような気がするが、はっきりとは分からない。地下牢には明かりが乏しかったため、容貌までは見て取れなかったのだ。それにリスカの意識は殆どティーナに向けられていた。その者にはほんの一瞬しか関心を持たず、以後きれいさっぱりと忘れていたのだった。
「その方が何か」
「装飾品に悲しいほど疎い君は知らないだろうが、まあ、色々とね」
 微妙に失礼な言葉を含みつつ、ジャヴが語尾を曖昧にした。
「何ですか」
 どうせ女性らしくありませんとも華やかさとは無縁ですともでも私だって装飾品に多少の興味はあるんですよ、と内心でいじけつつリスカは強く聞き返した。本音を言うとからかわれそうなので、やめておくが。
「君が早朝逢い引きしていた異形のことなのだがね」
 いきなり話が飛びますね、と不思議に思いつつリスカは無言で先を促した。
「君の逢い引き相手としては最も信じられぬ、いや、意外な相手なのだよ」
 どういう説明ですかそれは。私に対する侮辱ですよっ、とリスカは胸中で反発したあと密かに落ち込んだ。
「かの者は、百年に一人と謳われた天才細工職人」
「え?」
 どこかでそういった言葉を聞いた覚えが――。
「ミゼン=ミラクという、この世が生んだ細工の寵児」
 リスカは、ぽかんとした。
 
 
 ミゼン=ミラク。
 その名をどこかで耳にした。
 リスカは急いで記憶を辿る。どこで聞いたのだったか。
 あれは、そう、馴染みの雑貨店だ。
 記憶が一気に蘇り、リスカは驚愕と同時に焦りを覚えた。
「ミゼン=ミラクですか!」
「名を知っているのかね。これは意外だ」
 ジャヴ、本気で驚くのは失礼極まりないですよ。
 ではなく、ミゼン=ミラク。
 リスカは無意識にこめかみを押さえた。
 しまった、雑貨屋の店主に代金をまだ支払っていない。リスカは真っ先に現実的なことを考えてしまい、しばし切なくなった。
 そうなのだ、つい踏み倒したくなる……ではなく、憤りたくなるほどの高値をつけられた銀の耳飾りを、リスカは一つ持っている。見事な細工が施された装飾品。その作者がミゼン=ミラクではなかったか。
 リスカは乾いた微笑を浮かべた。世に名を広く知られる天才職人に、毎朝食材を届けられた自分は一体。しかも、やけに懐かれた上、熱い抱擁を受けた気がする。
「そ、そうだったんですか」
 まさかそんな有名人だとは予想していなかったため、リスカは大きく狼狽した。
「うむ? ではその天才職人を伯爵は投獄したのですか」
 驚きを強め、リスカは素っ頓狂な声を上げた。
「天才の宿命か、自身の光が強いために周囲に濃い影を落とす。ティーナとともに牢獄に現れた青年は、ミラクの腹違いの弟だ。才能一つで名声を得た兄に必要以上の妬みを覚え、言葉巧みに伯爵と引き合わせたらしいね。ミラク自身は名誉も地位も財も求めぬ、孤高の職人だ。弟の複雑な心情を知らずに可愛がっていたようだから、その誘いが罠だとは疑いもしなかった」
 妬みに心を失った青年は、実兄から全てを奪うために伯爵と手を結んだのか。
 皮肉なことだ、とリスカは顔をしかめた。貴人を虜にするほどの美しい細工を手がけてきた職人のミラク。自身までもが、見世物のための細工を施される結果となってしまった。
「しかし、一体誰がミラクの身体に細工を」
 工黄学(こうきがく)に精通している者でなければ、あれほど見事な細工を人間の肉体に組み込むことは不可能だ。
「それが不明なのだよ。義手や義足など、手足の一部のみならばまだ分かるが、全身に精巧な機械を埋め込まれている。ミラクはどうも、どこかでその手術を受けた。そして、おそらく自力で脱走したと思われる」
 リスカは嘆息した。思ってもみない場面で繋がりがあるものだ。それでジャヴはあの朝、ミラクを捕えて詳しい話を聞きたかったのだろう。リスカは何も知らずに邪魔をしてしまったのだ。ま、まあその後、日を置いて再びリスカの元にこっそりとミラクが訪れてきたのだが。
 すぐに保護すべきだったと悔やんだが、今はどうにもならない。
 再び思考に沈む。話を整理しなければ、わけが分からなくなりそうだった。
 伯爵が何者かと共謀していたというのなら、ジャヴの師であるシエルはどうだったのか。あくまでも劇薬のみに関っていたのだろうか。それをジャヴにたずねるのははばかられた。
 意識を切り替え、花苑の殺人についてを考える。劇薬は大抵、貴族が口にしていたという。シエルは直接、貴族達に劇薬を手配していたのか。それは少し考えにくい。既に劇薬の一部は市場に出回っていたはずだった。だが、一般の町人には殆ど被害が出ていない。だとすれば、一体劇薬はどこで売買されていたのだろう。
 答えは簡単だった。花苑には様々な階層に分かれて造られた娼館が多いのだ。これは、あまり他の町には見られぬ特色だった。普通の町人は出入りしない貴族御用達の娼館にて、劇薬は使われたのだろう。
 事実、そういった会話をティーナとかわしているのだ。死に至る媚薬を娼館に手配したのか、とたずねた記憶がある。
 ティーナは笑っていた。退屈な日々に飽いていた貴族達を巻き込んだのだと。
 だが、貴族の腹上死とは別の不審な死が花苑で起きていた。精気を奪われ、帰宅途中で命を落とした客達。
 劇薬を配るのは、勿論娼婦。そして、人間の精気を啜っていたのは、娼婦と化した蛾妖だった。
 その類似点に、リスカは寒気を覚える。
 では、異形の見世物はどうなのか。
「見世物は、花苑に訪れる貴族達のあいだで広まっているのですか」
 答えは返ってこなかったが、二人の顔を見ればこの推測が間違っていないと確信できる。
 だとすれば。
「全てに、魔族が関っている」
 一体どういうことなのか。都ならばともかく、このような辺境の町になぜ知能を持つ複数の魔族が顔を出すのだろう。
 この町には、なぜか貴族が多い。そして犯罪者も多い。リスカのように何かから逃げてきた者もまた。
 ふとリスカは視線を転じた。
「ジャヴ。貝百の登場を知った時、私の失敗だとあなたは言いましたね。頭の片隅で考えていたことが転移に影響したと」
 貝百はおそらく積荷を隠した馬車を、あの場で待っていたのだろう。そして通行所の兵士に暗示をかけ、荷馬車を町中へ引き入れるつもりだったのだ。
「あなたは騎士たちに協力している。そして、エジは貝百があの場に現れるのを知っていた。ということは、お二人は大体、荷馬車の移動先、あるいは見世物が催される場所等を予測できているのですね」
 そうでなければ、なぜ突然荷馬車の中に転移してしまったのか、また、エジが都合よく騎士隊を引き連れて現れたのか説明できない。
 二人を交互に見つめて反応をうかがった。ジャヴがにこりと微笑む。
「よくできた、弟子よ」
 この人は、全く。
 などと呆れつつも、褒められてわずかに喜びを覚えてしまうリスカだった。なぜかシアまでも照れたようにぴぴぴと歌い出す。
「お前達は」
 すこぶる複雑そうな顔でエジが溜息をついた。
「魔術師は、よくよく論が好きなのだな」
 心底呆れた顔をされ、リスカはぐっと呻いた。



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