she&sea 60

 それは確かに、騒々しさに溢れた小さな宝島のようだった。
 ごちゃっとしていて、彩り鮮やか。
 海賊船のすぐ側に留まっている晶船を目にし、笹良はぎょっとした。でかい! これはもう船と呼んじゃいけない。というか、船に見えない。
 更に言えば、もしかしなくとも、他の海賊船が何隻か、近くに停泊しているではないか。
 いや、無論、海は広いな大きいな、と分かっているので、ガルシア達だけじゃなくきっと他にも海賊がいるんだろうとなんとなく思っていたが、まさか、こうして呑気に目撃できるとは想像していなかったのだ。
 目眩がとまらないぞ。
 笹良はくらくらっとした。額を押さえてよろめく笹良の背を、相変わらずの微笑を浮かべたガルシアがさりげなく支えてくれた。
 今度の晶船は、複数の巨大なお盆に溢れるほど物を積んでいるような印象を受けた。いや、一見お盆のようにぺったらこい感じがするけれど、海中に沈んでいる船腹部分は結構な深さがあるのかもしれない。最初に見た晶船みたいに天幕とかがはられているが、それにしても一隻の大きさがはんぱじゃないので広いしえらく雑然としている。特大版おもちゃ箱といった風情ではないか。小型の海上都市、と表現するのは奇麗すぎるな。様々な商品を扱う海上屋台の連なりとでも言おうか。
 全部で何隻あるのだろう。どれも流されないように、縄の梯子できっちりと繋がれている。これ、空中から見下ろすと、結晶型というよりデカ蜘蛛の巣に引っかかった複数の獲物ならぬ船、に近くないか?
 アルバシュナ、絶対何かがおかしいぞ。
「海上の王!」
 突然、笹良の思考を遮るように、元気な声が聞こえた。
 何事だっと顔を上げた時、晶船の一隻から小柄な少年がたたたっと身軽に飛んだりはねたりして、海賊船のふちにすちゃっと降りてきた。どこの軽業師なのだ。
「レザンか。大きくなったな」
 溌剌とした様子で登場した少年に、ガルシアが平然と答えた。海賊王、まるで孫を見つめる好々爺のようだぞ。
 レザンと呼ばれた少年が「憧れの人!」を見る時のような恍惚の目をしてガルシアに笑いかけた。ついでのように、ちろっと笹良にも視線を向けてくる。こら、何だその、不審者を見る目つきは。
「何ですか、この小娘」
 ガルシアは笑うだけで答えなかった。
「王の冥華だぜ」
 と、余計な説明をしたのは、いつの間にか気配を感じさせることなく背後に立っていたジェルドだった。
「えっ。これが、王の女!?」
 大砲で狙ってもいいだろうか。
 笹良は静かに怒りの炎をまとった。レザンの反応が許せぬぞ。
「これが? まさか冗談でしょう。今までの女と比べて、あまりにも……」
 と、レザンが絶対信じない、という不屈の目をして笹良を無遠慮に凝視した。
 もう我慢できないな。むしろ我慢しちゃいけない。怒りという真心をこめて海に突き落とし消滅させてやるのだ。
 大体、今までの女とは、何なのだ!
 本気の怒りに誘われるまま笹良は闘志を漲らせ、ガルシアの腰にさしている剣を勝手に引き抜き、レザンを成敗しようとした。
「ササラ。落ち着け」
 うるさい、文句を言うならガルシアも容赦なく斬るぞ。
「冥華っ」
 と、これまた気配を悟らせずに接近したカシカによってとめられてしまう。
 くそっ、必ず闇討ちするのだ!
 怨念をこめて唸る笹良を、カシカがずるずるっと必死の態度で引きずった。強制的に遠ざけられる笹良の様子を、問題の原因であるレザンがぽかんと見送っていた。
 
●●●●●
 
 で、場所は、海賊船の船首側。ここまでカシカに引っ張られてしまったのだ。
 何なのだ、笹良の美徳を理解せぬあの無礼極まりない少年は! とカシカに聞いてみた。
「レザンは晶船の頭の息子だ。頼むから彼に喧嘩を売るな。レザンを傷つけたら、頭が黙っていないぞ」
 うう、逆に闇討ちされそうだ。
「この晶船の頭と、王は昔からの知り合いだ。もとは王の船に乗っていた男」
 へえ、海賊船から独立したってことだろうか。
「冥華、王の昔の女なんて、気にしなくていい」
 いきなり話題転換して嫌な事を思い出させないでほしいのだ、カシカよ。
 海賊王だもんね、きっとたくさんの美女とお知り合いなんでしょうねっ、とカシカに八つ当たりし、横を向いた。
「ああ、お前は……うん、どの女よりも、その、独創的だし、奇想天外だ。これまでの女は、確かに、勿論美しくはあったが、だからといって容姿を比べる必要など」
 カシカはすっごく困った顔をして妙に声を詰まらせながら、フォローのようで実は全くその役目を果たしていないどころか、ある意味貶めているんじゃないかと疑いたくなる慰めの言葉をくれた。
 うう、この台詞を口にしたのが生真面目なカシカじゃなかったら、速攻で縛り上げ魚の餌にしてやるところだ。
「お前にだって、きっと見れるところがどこかにある」
 慰めてない、それ、全く慰めてないぞっ。
 と、カシカの大真面目な言葉に内心で突っ込みを入れつつ拳を震わせていた時だった。カシカを探していたらしいサイシャが、よいしょよいしょという感じでこっちに寄ってきた。前の晶船では入手できなかった薬剤の用具や材料をここで購いたいので、一緒につき合ってほしいと助手たるカシカを呼びに来たようだ。カシカはちょっと困った顔をして笹良に顔を向けた。
「冥華、すぐに誰かを寄越すから、ここで大人しくしているんだ。くれぐれも動くな」
 押忍っ、と元気よく了承の合図をしたら、呆れた顔でぴたんと額をはたかれた。痛い。
「絶対に動くな。一歩も動くな。いいか、他の海賊の奴らも来ているんだ。晶船内では、本来敵同士であっても諍い事は禁じられているが、それでも喧嘩が起きないわけじゃない。余計な騒動を作るな」
 もう、小煩いぞ、カシカ。
「ほら、これでも齧って、少しの間待っていろ」
 と、カシカが林檎を一つくれた。笹良を何だと思っているのだ。物で懐柔を企むなど卑怯だぞ、と思いつつも渋々林檎を受け取った。
 カシカとサイシャが去ったあと、不服ながらも笹良はその場にちまりと座り、大人しく待つことにした。本音では晶船内を冷やかしてみたいと企んでいたが、勝手な行動を起こして余計な問題事の種にはなりたくない。成長したな、笹良も。
 誰が来てくれるのかな、とかぷかぷ林檎を齧っていた時、突然頭上が陰った。
 笹良はこの時、あまり皆の目につかないよう樽を背にして座っていたのだが、その上に誰かが乗っかったらしい。驚いて振り向くと、想像した通り、樽の上に人が乗っていた。レザンだ。
 レザンは樽の上に屈んだ状態で、呆気に取られている笹良をまじまじと見下ろしていた。
「お前、なんでこんな所で林檎を食っているんだよ」
 それはカシカにきいてほしいのだ。
 もしやレザンも食べたいのか? と思いつき、「む」と食べかけの林檎を差し出してみた。すると更に目を見開かれ、異物と対峙しているかのような、やけに驚きが溢れる顔をされてしまった。
「……あんた、本当に王の女なのか?」
 嘘だろ、と言いたげな顔に、この林檎を投げつけるべきだろうか。というか、そんなことを確認するために、わざわざこっそりと笹良の前に登場したのか?
「用、何?」
 失礼な発言ばかりを延々と続けられそうだったので、やや突っ慳貪な態度でたずねてしまった。笹良と同年代くらいの少年だし、恐れる必要はない。
「何だあんた、妙な話し方をするなぁ。一体どこの田舎者だよ」
 駄目だ、この少年は一度本気で精神を鍛え直すために、襲撃した方がいい。
「王が攫ったとは到底思えないし。そんなに金持ちの娘なのか」
 レザンはどうやら、笹良が大財閥と呼べるくらいに裕福な家の娘だからガルシアの目にとまったんだ、と勝手な結論を出したようだった。多分、笹良が海賊船にはそぐわぬ薄緑色の奇麗なドレスをまとっているため、そんな途方もない妄想をはじき出したのだろう。
 いいのだ、少年なんかに笹良の可憐さがわかってたまるか。
「ちぇ、女ってつまんねえの。怯えてるのかよ」
 誰がだっ。
 売られた喧嘩はきっちり買わなきゃ乙女がすたる、と意気込み、つい条件反射で立ち上がってファイティングポーズを取った。するとレザンは、反応が返ってきたのが嬉しかったのか、にやっと笑った。まだまだ子供だな、遊んでほしいって顔だぞ。
「こんな所に隠れてさ。お付きの奴がいなきゃ歩けないのか」
 侮辱したな。
「俺の船を見ないなんて、どうかしてるぜ」
 レザンが顔をしかめてつんっと横を向いた。ははぁなるほど、レザンは自分の船を自慢したくて仕方ないお年頃なのだな。
 うぬぅ、本音を言えば笹良だって晶船にとても興味があるし、許されるならば見て回りたいのだ。
 けれど、お迎えが来るまで勝手な行動を取るわけにはいかない。
 笹良の戸惑いを理解したのか、レザンがむっとしたような表情で睨んだ。
「ほらな、怖いんだろ。なんであんたらお姫様ってさ、自分で考えて動かないんだよ」
 それは違う、お姫様達だって自分の立場を理解しているから動かないのだろう。万が一のことがあれば、咎められるのは自分じゃなく周囲の者だと知っている。
「船の中、見たくないのか」
 見たいと思うのは事実だ。
「……見る、したい。でも」
「だったら来いよ。王の女なんだろっ」
「んむ!?」
 焦れたレザンが軽やかな動作で甲板に降り立って、いきなり笹良の腕を取り、引っ張った。
「まっ、待って、笹良、動いたら……っ」
「王にはあとで伝えとけばいいだろ」
 戸惑う笹良に、レザンがぽんっと言葉を投げた。そうか、笹良を王の女と思っているから、自分の船を見てほしいのに違いない。レザンはすごくガルシアのことを好きそうだ。
 困ってしまうのだ。勝手に動いた場合、あとでカシカに特大の雷を落とされそうだ。
 しかし、晶船は見たい。なぜなら、この船にも奴隷が存在するだろう。晶船で奴隷がどんな扱いを受けているのか、知りたかったのだ。――オズ達、海賊船で働かされていた時よりも酷い扱いを受けていないだろうかと、不安に思わずにはいられなかった。レザンの晶船にオズがいるわけじゃないが、それでも見ておきたい。
「ほら、ちゃんと歩けよ」
 大丈夫だろうか? レザンの父親が頭というならば、彼の制裁を恐れて悪さをしようとする者はいないだろう。少しくらいなら、いいか。海賊王を崇めているレザン自身が笹良に対して何かよからぬ真似をするとは思えないし。
 一応、念のために聞いておくか。
「レザン」
「何だよ」
「笹良、晶船、初めて。知る、ない。喧嘩、起こる、怖い。レザン、笹良、守る?」
 もし何か恐ろしいことが起きた時は気合いを入れて笹良を守ってほしいのだ、と姑息な頼みをしてみた。
「あんた、ほんっとうにお姫様なんだな。……ま、いいぜ。俺は頭の跡継ぎなんだ、女の一人くらい守れる」
 レザンは頼られたことに照れと嬉しさを感じたらしく、ぶっきらぼうな口調でそう言った。海賊とは思えない爽やかさだな、レザン。というより、笹良自身の問題じゃなく、王の女に頼られたという事実が嬉しいのだろう。ちょっぴり複雑な気分だが、ここは一つ、王の女と誤解してくれていた方が助かるに違いない。
 む、身を挺して力一杯守ってくれたまえよっ、と重々しく頷き、ぽすぽすっとレザンの肩を叩いてみた。
「変な姫だな!」
 と、またしても不審人物扱いされてしまったが、レザンの笑顔は悪くなかった。
 
●●●●●
 
 祭りの出店みたいだ、と笹良は放心状態で晶船内を眺めた。
 甲板を利用してぎゅうぎゅうに色んな物が展示されている。マストにも果物とかを入れた網がぶら下がっている。
 それに、随分たくさんの人がいた。この人達は全員海賊なのか。恐ろしい。
 少し先を歩くレザンの手にしがみつきつつ振り向いて、晶船の周囲に停泊している複数の船を観察した。
 あれらの船もやはり海賊船なのか、と信じたくない思いでレザンにきいてみる。
「当然だろ。灰色の帆はアサード船長の船。男前だから女には人気が高いけど、結構冷酷だって評判だ。いけすかない奴さ。濃紅の帆はハディ船長の船だな。あいつのところはなあ、下っ端の奴までも非道で知られてる。荷を奪うだけじゃなくて、船員も皆殺しにするって話だ。女子供でも容赦しないとか。群青の帆は、リリサ船長の船だな。奴も神出鬼没でさ、海上騎士団を翻弄しているらしい。むかつく野郎だけどな。で、紫紺の帆はミマリザジーク船長の船だ。こいつは本物の鬼畜野郎さ。小島一つ制圧したんだとか。その島の住人全て八つ裂きに……」
 待つのだ、レザンよ。
 笹良は今、すこぶる悪寒を感じてたまらないぞ。
 全員揃いも揃って、ブラックリスト入り間違いなしの極悪非道な犯罪人ではないか。一つも賞賛できる要素がないのだ。
「そりゃ海賊だから。善人なわけないだろ」
 いや、それを言っちゃおしまいではないか。
 ふと気になったんだが、笹良などに他船の情報を漏らしても平気なのか?
「何言ってるんだよ。こんな話、船乗りなら誰でも知ってるじゃないか」
 知らない、知らない。
 本当に大丈夫なのか? そんな極悪、冷酷海賊くん達が皆この晶船に集っているなんて、悪夢のようだぞ。
「規模の小さい晶船だったら特定の船だけを相手にしているところも多いけどな、俺の船は中立なんだよ。もし掟を破ってこの船を襲う痴れ者が現れたら、ちゃんと報復はする」
 報復。
 聞いてはいけないことを耳にしてしまったな。
 鳥肌を立てつつ「やっぱり大人しく元の場所へ戻る」と逃走しかけた笹良だったが、自分の船を自慢したいレザンにあっさりとっつかまり、恐怖の晶船見学続行を余儀なくされた。くそっ。
「頭に会わせてやる。王の女だからな、特別だぞ」
 いらないぞ、そんな特別は。丁重にお断りすると言っているではないか。
 そもそも晶船は複数の船を縄の橋で繋いでいるため、移動する度、真の恐怖を感じずにはいられないではないか。頼りなくぐらぐらと揺れる縄の橋の下は、本物の海なんだぞ! 落下したらどうするのだ。
「鈍臭いな! 早く来いって」
 行けるわけがないではないか。笹良はレザンと違って軽業師的に身軽ではないのだ。せめて、縄の橋じゃなく板を渡してほしい。
 本気で失神寸前の笹良だったが、全く人の話を聞かないレザンによって、無理矢理船から船へと引っ張られた。
 というか、お姫様めいた衣装をまとっている笹良って思いっきり目立っているぞ。すれ違うごつい海賊くん達の視線が痛い。ガルシアの船に乗っている海賊君の一人とすれちがった気がするけれど、こんなにヘルプの視線を送っているのに、薄情にもスルーされた。レザンと一緒にいるから問題ないと思われているのだろうか。大体、ガルシア達はどこへ行ったのだ、と内心でご立腹した。
「あんた、カング食う?」
 何?
 三隻目の晶船まで引っ張られ、息も絶え絶えな状態で天幕が並ぶ狭い場所を歩いていた時、レザンにそう言われた。
 ちなみに三隻目の晶船内では、主に食べ物を取り扱っているようだった。ううむ、無理くりという様子で小狭く並ぶ歪な天幕の上に、もしかして魚の骨で作っているんじゃないかとつい寒々しい想像をしたくなるような怪しい形の提灯もといランプが細い縄で繋がれているところなど、本当に祭りの夜店を連想させる。いや、夜店をもっと小汚く、ぐちゃっと縮小して、どさっと商品を積み上げている感じか。この密集具合と人の多さ、ヤバさ、ついでに海賊のでかさ、どこから突っ込んでいいのか最早分からないではないか。
 ガハハと笑い合いつつ歩きながらビールっぽいお酒を飲む海賊くんたちを思わず半眼で見送ってしまった。
「おい、聞いてんのか」
 しまった、今現実逃避していたようだ。
「カング、何?」
 恐る恐るたずねるとレザンは、ぐねぐねした異様なアミの上で何かを焼いていた出店のおっちゃん……違った、商人的海賊くんに明るい笑顔で挨拶した。そして、何かを受け取る。
「ほら」
 レザンが差し出したのは、ビッグサイズな鳥串的食べ物だった。ちょっといい匂いがする。これは結構まともに見えるし、美味しそうだ。何より、祭りの雰囲気が更に強くなった。この分だとどこかに林檎飴とかわたあめとか売っているのではないだろうか。
「あーあんたお姫様だっけ。こういう下民の食べ物は……って、おい」
 レザンがぎょっとした。何やら皮肉を言おうとしていたようだが、「鳥串……」と日本の食べ物を思い出して懐かしくなった笹良にはしっとしがみつかれたために、途中で言葉を失ったらしい。
 決して食い意地がはっているのではない、久々にまともそうな食べ物に会えたため、これを逃してはなるまいという欲求があっただけだ。
「食べる、食べるっ」
 せがむと、レザンはえらく複雑な顔を見せた。お姫様なのにがめついと感じたのか、いや、ここは心の安寧のために、笹良が食べる意思を見せたので喜んでいると取っておこう。
 妙に哀れな子を見るような目をされてしまったが、レザンは特に何のコメントもなくカングというらしき鳥串を渡してくれた。
 はぐっと一口、食べてみる。
 美味い!
 これは美味しい。味も、日本の夜店で売ってる鳥串そのものだ。ぴりっと塩がきいていて香ばしく、表面はアミで焼いているためイイ具合にかりかりしていて、中はほくほくと柔らかい。噛むと、肉のうまみがじゅわっと口の中に広がるのだ。
「うまっ」
 感動で涙が出てきたぞ。見た目も味もまともな食べ物とここでようやく出会えたのだ。こんな僥倖はないな。
「あんた……そんなに飢えてたのかよ」
 飢えてた、という表現に色々と切ないものを感じたが、レザンの目には先程よりも強く哀れみの色が宿った気がしたので、反発するのは控えておいた。
「レザン、食べる?」
 レザンも食べる? という意味で、食べかけの串を差し出してみた。微妙な間のあと、本当に王の女なのか……とレザンが悩める顔をして独白した。どういう意味なのだ。
 笹良は大きな幸福感に包まれつつ、なぜか遠い目をするレザンに引っ張られて四番目の船に移動した。
 が、大事なことを忘れていた。
 騒動というものは、まるで気を緩めた瞬間を狙うかのように、突然起きるのだと。

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