砂の夜[12]


 闇の中を突き進んだあと、いくつかの部屋を通り抜け、再び別の抜け道を利用して、アヴラル達はようやく建物の外に脱出することができた。
 最後の抜け道は、外へと続く狭い換気口へと繋がっていた。身体の小さいアヴラルや華奢なラシュは難なく通り抜けられたが、キカたちはひどく苦労しながら窮屈そうに這い出るといった状態だった。
「……少し、痩せるかな」
 と琥珀色の瞳を持つ女性が衣服についた埃を払いつつ、しみじみと寂しげに呟いた。最後尾を進んでいた従者の女性は、キカの手を借りて換気口から出ていた。
「こちらへ。お急ぎください」
 外の世界もまだ、抜け道と同様に色濃い闇に覆われていた。息苦しさから解放されるのは先のようだ。暴力的と感じるほどの巨大な月の下、強張った顔のラシュが急いた様子でシャル達を促した。
「ハルヒはどこに捕らわれている?」
 皆がラシュに続いて駆け出そうとした時、不意打ちのようにシャルが密やかな声を闇に落とした。
「こらシャル。まさかハルヒを助けに行くつもりか」
「つもりだよ」
 足をとめたキカの問いに、冗談とは思えない真剣な顔でシャルが答えた。先程の女性の仕草を倣ったのか、どこか気怠げな様子で衣服の埃を払っていたが、実は溢れそうになる苛立ちをその行動で抑えようとしているのではないかとアヴラルは気づいた。
「お前な、この状況、分かっているか? 恰好を変えたせいで、中身まで呑気な貴人になったか」
 呆れ顔で腕を組むキカの嫌味に対し、シャルは身を包む深い闇を撫でるかのようにゆっくりと視線を巡らせた。表情に変化はないものの、鮮やかな紫色の瞳には鋭さを感じるほどの怒りが宿っている。アヴラルは息を呑んだ。一体何に強い憤りを感じたのだろう。
 口を噤んでわずかに眉をひそめるキカから視線を逸らしたあと、シャルは再び気にした様子で衣服の埃を執拗に払い、夜気に溶けるような静かな声音でぽつりと告げた。
「ハルヒはどこに?」
 遠くへ眼差しを向けたシャルの問いは、驚いているラシュに投げかけられたものらしかった。
「分かりません。どこに監禁されているのかは、見当がつかなくて」
「優しく聞いているうちに答えなさい。ハルヒはどこだ」
 重苦しい沈黙が満ちた。アヴラルは嫌な予感に震え、そっとシャルの服を握った。
「――馬鹿にしてくれるものだ」
 アヴラルが衣服を掴んだことに気がつかなかったのか、シャルは躊躇を見せずに素早く動いた。なぜか手酷く振り払われたような心地になり、胸が冷える。
「おい!」
 キカがぎょっとしたように叫んだ。
 顔を強張らせて逃げ出しかけたラシュに難なく追いついたシャルが、彼女の細い首に手をかけ、その場に押し倒したのだ。ラシュの艶やかな長い髪が地面に広がり、乱れる様子を、アヴラルは立ち尽くしたままただ呆然と眺めた。
「何をなさるのですか!」
「何もどうもない。しばらくは騙されてやろうと思ったけれどね、次第に腹が立ってきた」
 ラシュの首に手をかけたままのシャルが冷ややかな口調でそう言った。突然のことに皆動けず、成り行きを見守るしかなかった。いや、皆ではない。振り向くと、キカは困惑のまじった渋い顔をしていたし、女性二人も、仕方ないかという表情を浮かべていた。どういうことなのだろう。
「だ、騙すなんてっ」
「お前、喋り過ぎていると自分で分からなかったのか。都合よく現れただけでも不審極まりないのに、聞きもしなかったことをご丁寧にぺらぺらと。兄との確執について述べよと、誰がたずねた?」
 シャルの腕を引きはがそうとか弱げにもがきながら救助を求める眼差しをこちらへ向けていたラシュの身が、一瞬硬直した。
「どうせ、こんなところだろう?――賢い兄をたまには出し抜いてやりたい、その程度だろうに」
 まるで悪党のごとくわざとらしい意地悪な笑みを浮かべてシャルが挑発した時、儚げだったラシュの顔色が大きく変わった。どこか不貞腐れたような、ある意味、身に迫る危険を全く感じていない無邪気さまでもうかがえる。
「呪縛なさい!」
 ラシュが突然、シャルを睨みつけながら声高に叫んだ。その瞬間、アヴラルは首筋が焼けるような感覚を抱いた。
「動くな!」とシャルがこちらに顔を向け、鋭く叫ぶ。けれどその警告は少し遅く、キカ達は数歩シャルの方へと足を動かしていた。おそらくは、アヴラルとシャルだけが、呪術の発動を感知したのではないか。
「何だ!?」
 キカの素っ頓狂な声が響いた時、こちらへ向かって仕掛けられた術は既に完成していた。動く者を束縛する紗蜘(さく)の錠という術――以前、砂漠横断途中で休憩した時に現れた猛毒性の虫を、規模を縮小させたその呪術で捕えたことがあったのだ。術の難易度は低く、敵を討ち滅ぼすほどの威力もないが、素早く仕掛けることができるためによく使われる。
 しかし、今何者かによって放たれた術は、その時シャルが操ったものよりもっと手が込んでいた。数人掛かりで操らなければ、これほど強固な呪力を生み出せるはずがない。
「う!?」
 動けば動くほど絡まる術。アヴラル達は抵抗するわずかな時間さえ得られぬまま、見事に引っかかってしまった。網のように張り巡らされた術糸に手足の自由を奪われた状態で、身体が宙に浮く。空中に編まれた術の網に、アヴラル達は絡めとられたのだ。
「……シャル、お前、こうなることくらい分かっていただろうに、もう少し堪えられなかったのか」
 紗蜘の錠の粘つく網にとらわれて動作を封じられたキカが、情けない表情を浮かべてシャルを見下ろした。
「悪い、我慢に慣れてないから」
 シャルはラシュを押さえたままの体勢で、悪びれずにあっさりと答えた。キカだけでなく、女性二人もどこか遠い目をして溜息をついた。
「というよりもね、これ以上娘の出方を窺ってもいたずらに時間を浪費するばかりだ。ハルヒの安否を知りたいが、この娘は肝心なことは何も知らない」
「――離していただけない? 勝手なことを言ってますけれど、優位に立っているのは私よ」
 機嫌を大きく損ねた顔でラシュが苛立たしげな非難の声を上げた。
「そうかな」
「そうよ! 見なさい、私、一人じゃないのよ。彼らがいるもの」
 ラシュの声が響くと同時に、建物の影から数人の呪術師らしき者が姿を現した。すぐ側に潜んでいた彼らが、シャルに脅されていたラシュを救うために、この紗蜘の錠を編み出したのだろう。
「あの人達を助けたいのならば、私から手を離しなさい」
 シャルは無言で従った。ラシュはそれまでの控えめな態度が嘘のように溌剌とした様子で身を起こし、呪術師たちの方へと走った。
「もしかして私達は人質というやつかね」
 アヴラル同様、術にとらわれて身動きできぬ状態の女性が束縛の糸を物珍しげに眺めつつ、これまた危機感のない声で己の従者にたずねていた。従者の女性も「そうでしょうね」と呑気に返している。
 アヴラルは自分がどう振る舞っていいのか分からず、おろおろとした。状況的には進退窮まる場面であるはずなのに、誰もそれほど焦りや動揺を見せていないのだ。
「兄様が気に入った人だからもう少し従順だと思っていたのに、幻滅したわ」
 呪術師たちの側へ行って安堵したらしいラシュが、愛らしい唇を尖らせてつんと顔を背けた。
「困ったお嬢さんだ。勝手な真似をすれば兄さんが窮地に立たされるとは考えなかったのか」
 腕にはりつく術の網に嫌な顔をしつつもキカがのんびりとたずねた。
「兄様は転んでもただでは起きないから平気ですもの」
「そんなに実兄を困らせたいわけか」
「だって狡いんですもの、いつも何の相談もなしに勝手に物事を決めて――キカ様、なぜお笑いになるの」
「いや、可愛らしいと」
 シャルが向ける剣呑な視線に気づいたらしく、キカは緩めていた表情を慌てて引き締めた。
「可愛らしいの一言ですめばいいけれどね。無垢な顕示欲ほど始末に悪いものはない」
 シャルが放つ遠慮のない辛辣な言葉に、キカが気まずそうな顔をして黙り込む。
「馬鹿にしているのはシャル様でしょう。この状況をどうぞご理解くださいな」
「理解はしているが、次にどうするつもりかな」
「決まってます。兄ではなく、私と契約を」
 ラシュが誇らしげにそう言った。
「断ることはできませんわね。彼らの命がかかっています。口約束だけでは駄目。こう見えても呪術には詳しいの。呪法をもって契約させてもらうわ。反抗的な人は嫌いだから」
「評価してもらえるのは光栄なんだけれどね、契約は好きじゃない」
「あらシャル様、あなただけを評価したんじゃないわ」
 けろりとした顔でラシュが告げた。
「どちらかというとシャル様じゃなく、その子――ね、あの子、精霊の血を継いでいるの? 私、見たのよ。砂漠の王。あの子が召喚したのでしょ? 凄いわ、精霊を従属させるなんて。そんな力量を持つ呪術師は滅多にいない。あなたとその子はもう契約をかわしているのでしょ、それなら、シャル様が私と契約してくれればいいんだわ」
 明るい声を受けて、シャルが苦笑した。ラシュの視線を遮るように片手で額を押さえ、どこか自嘲の気配を滲ませてだ。一方アヴラルは狼狽えた。人々に愛される貴き清らかな精霊ではなく、自分は淫と陰、二重の背徳を備え持つと言われる魔に属する存在なのだ。そもそも呼び出した砂漠の王とて魔であるのに、どうして精霊と誤解されているのだろう。
 ラシュは「見た」と言ったが、一体いつアヴラルたちの様子を観察できたのだろうか。砂の王を召喚した時――どこからかうかがっていたという意味だろうか。呪術師の中には、遠くの景色を鏡のごとく水面に現すことが可能な者がいるのかもしれない。味方である呪術師に、そういった術を行使してもらったのか。どうも、アヴラル達の会話までは聞いていないようだが。
「まあ、この子の容姿ならば、普通は精霊と取るだろうな」
 キカがアヴラルの方へ顔を向け、複雑そうな声音で呟いた。
「二百万ラレィの価値は十分にあります。精霊を配下に従えることができるんですもの」
 シャルが笑みを消して、真顔でラシュを見据えた。
「ここはモルハイ、商人の町よ。二百万ラレィ、本当は払えないのでしょう? 私が代わりに立て替えます、その代わりに契約を」
「略奪の町の間違いでは?」
「つけ込まれる隙を見せる者が悪いわ。生き抜くということは、略奪の繰り返し」
「ならば、奪われたものを、奪い返すのも許されるだろう」
 ラシュが可愛らしく肩をすくめ、哀れみをこめた目をして微笑した。
「お仲間は網の中。そして、動けるのはあなた一人よ。あなたの術が優れていても、私の方には呪術師が三人もいます。勝ち目はないでしょう? それに、いずれは警備兵たちもこちらへ集まってくるわ、どうするの?」
「どうするか、こちらが聞きたいな。私が断った場合、どうする?」
「簡単な質問ね。従わせる方法などいくらでもあります」
 まさか、術による暗示でシャルを強制的に従属させるつもりなのだろうか。アヴラルはぎょっとし、再び砂漠の王たちを召喚するか迷った。この紗蜘の錠は、動作だけでなく力も抑制する別の隠術が施されているようだが、魔力を解放したアヴラルならばおそらく抜け出せるだろう。
「侮られたものだなあ。私はこれでも上位の呪術師なんだがね」
「見下してはいません。だからこうして念のために三人も呪術師を用意したの。あとで兄に怒られそうだわ、勝手に連れ出したって。本当は他の方達から引き離したあとに、契約してもらうつもりだったのよ。私は野蛮な脅迫など好きじゃないのです」
 ラシュはおどけた素振りを見せながら、背後に控えている呪術師たちへちらりと視線を向け、合図を送った。
 アヴラルははっとした。シャルを束縛するためか、呪術師たちが動き出したのだ。胸の中で、かっと拒絶の感情が燃える。シャルに手出しをするのは誰であろうと絶対に許さない。
 アヴラルは一気に魔力を解放したあと、自由になった手でぎゅっと紗蜘の錠の糸を掴み、ひきちぎった。完璧だった束縛の術が乱れたことに気づいたらしい呪術師たちが、愕然とした様子で動作をとめる。
 紗蜘の錠の網は、アヴラルが放った魔力に競り負け、呆気なく霧散した。網の支えを失ったキカ達が驚きの声を上げ、体勢を崩しながら地面に落下する。アヴラルもまた落下したが、魔力を行使し、ふわりと軽く降り立った。
「な、何?」
 ラシュだけがすぐには状況を飲み込めない様子で、きょとんとしていた。呪術師たちは最早、シャルの方を見ていない。戦慄が滲む表情を浮かべ、強固な術を消滅させたアヴラルに攻撃系の術を仕掛けようとしている。だが、遅い。アヴラルが宿す魔力と、人が持つ呪力では歴然とした差が生じる。同列に置いて比較できるものではないのだ。
「イース」
 意志をもって名を呼んだ瞬間に出現する美しい砂漠の王たち。夜の一画を禍々しい銀の羽根で埋め尽くす。アヴラルは胸中で命じた。まだ襲うなと。
「呪術を仕掛けた時は、彼らに襲わせます」
 アヴラルはシャルの様子を意識しつつも、呆然とする呪術師たちに向かって宣言した。このまま去れば襲撃はしないと言外に含ませたつもりだった。
 呪術師たちが呪法を編み終えるまでの間に、アヴラルはたった一言、動け、という命令のみで砂漠の王たちを従わせることができる。勝敗の行方は言うまでもない。
 呪術師たちは無言のまま後退した。放心した様子で砂漠の王たちを眺めていたラシュが我に返り、敗北を認めて引き下がろうとする呪術師たちに非難の声を浴びせた。
「どこへいくの? 駄目よ、戻りなさい!」
「ラシュ」
 シャルが静かに呼びかけ、アヴラルの方へと歩み寄った。
 アヴラルはどきまぎしつつ、背後に立って自分の両肩に手を置くシャルを振り向いた。
「やめなさい。彼らだとて、命は惜しいだろう」
 ぐっと押し黙り、不機嫌になるラシュへ、シャルは更に諭すような声をかける。
「形勢は逆転している。この子は精霊ではない。呪法をもって従属させているのでもない。――最早、私の命令に関係なく、この子は動く」
 シャルの言葉にどきりとし、アヴラルは視線をあちこちへと向けた。シャルの言葉に従うつもりだ、ああ、けれども、自分は先程、彼女の命令に逆らった。失望されたのだろうか。
「この子は、人の欲望で操ってはいけない存在だ。契約は諦めなさい」
「やめて、そういう言い方、兄とそっくりです」
 どこまでも楽観的な口調でラシュが反発した。ラシュは全く危機感を持っていないのだ。自分が危険な目に遭うはずがないと、盲信しているかのようだった。
 シャルもそれを悟ったのか、ふっと吐息を落とした。それから気を取り直したように、少し声を大きくして言った。
「あなたは妹を甘やかせ過ぎですよ、館主殿」
「え?」
 ラシュがびっくりした顔をして、振り向いた。
 建物の影から、護衛を引き連れた館主が微苦笑を顔にはりつけてゆっくりと現れ、驚きで硬直しているラシュの横に立った。
「仰る通りですね、私はラシュに甘いようです。今まで、多少の我が儘には目を瞑ってきたのですが」
「兄様!」
 憤慨した様子でラシュが叫んだ。
「子供扱いしてほしくないわ。私達、双子なのよ。なぜ兄様ばかり命令するの」
 優しげに微苦笑していた館主がふと冷酷にも見える表情を浮かべ、ラシュへ目を向けた。
「なぜなのか、分からぬうちは黙っていろ」
 感情を乗せた腹立たしげな声に、ラシュばかりではなくアヴラルも飛び上がりそうになった。まるで刃物のような鋭い声音だった。
「お前の勝手な行動のために、私は取引どころか、命乞いをする羽目になった」
「命乞い? なぜそんな気弱なことを」
「お前の命乞いだ!」
 ラシュの憤りを、館主はその言葉で断ち切った。そして、一瞬で怒りを消し去り、シャルに艶やかな微笑を見せた。
「この通り、世を知らぬ妹です。ですが、やはり身内の者は守りたい。見捨てることはできません」
 青ざめるラシュを一瞥し、館主は丁寧に頭をさげた。
「お許し下さい。二度とあなたとその御子には手を出さぬと誓いましょう」
 シャルは少し考える顔をしたあと、アヴラルの頭にぽんと手を乗せた。乱暴な仕草だったが、じわじわと喜びが身体の中に広がる。アヴラルの波動が心地よいのか、砂漠の王達がわらわらと集まってきて、肩や腕にとまった。
「誓いだけでは足りない」
 了承するとばかり思っていたが、シャルは冷たくそう言った。
「分かっております。ハルヒの居場所ですね」
「館主殿。私は善良な人間ではないよ。ハルヒが死んでいた場合、その娘を殺す」
 ラシュがまだ状況を完全に把握し切れていない様子で、驚いていた。
「私が手を下してもいい。呪術師たちに守らせるというならば、砂漠の王に食わせよう」
 きっと誰もがシャルの厳しい言葉に仰天したはずだった。アヴラルもまた言葉を失った。なぜ? どちらかといえば他人への関心が薄いシャルがこれほどまでに、誰かの安否を気にかけたことはない。砂漠の王をけしかけると脅してまでも、ハルヒの身を案じているのはどうしてなのか。
 嫉妬なのか不安なのか判別できない混乱した感情が芽生え、アヴラルを苦しめた。思い出すと、ハルヒは奇麗な青年だった。彼もまた、シャルに好意を抱いているようにみえた。だからなのか。
「シャル様」
 館主が顔色を変えて名を呼んだが、さすがに次の言葉が出てこないようだった。
「ハルヒの居場所を」
 冷たく詰問するシャルの態度が軟化することはないと察したのか、館主は観念したように溜息を落とした。
「この中にはおりません。彼は逃亡しました」
「信じると思う?」
「手引きした者がおります。ガラフィーです」
 シャルの気配が戸惑いを伝えた。
「ハルヒだけではありません。子供達も数人」
「兄様」
 袖を引っ張るラシュを無視して、館主は続けた。
「その後、どちらへ向かったのかは分かりません」
 しばらくの沈黙ののち、シャルはアヴラルを促して、背を向けた。そのまま何も言わず、歩き出す。
 館主たちも何も言わなかった。背に視線を感じながらも、アヴラルは大人しくシャルに従った。キカたちもまた、シャルを追うようにして動いたようだった。
 見上げたシャルの横顔に、厄介事から解放された喜びや安堵はなかった。



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