砂の夜[15]
呆れを含んでいるような据わった目でユージュに長く凝視され、淡い恐ろしさを抱いたアヴラルは慌てて立ち上がり、よろめきながらもシャルの方へ走って飛びついた。驚くシャルの腰に腕を回し、皆の視線を遮るよう背の方に動いたあと、彼女がまとう柔らかな上質の衣服に顔を押し付ける。
「こら、アヴラル」
シャルにまで呆れられたようだったが、離れたくなかった。自分の知らないことがたくさんある。また、自分の知らないシャルの顔をハルヒたちが知っていることに、深い悲しみとやるせなさが生まれる。
必死にしがみつくアヴラルを引きはがすことは諦めたのか、シャルは軽く嘆息した。その後、ずるずると背にアヴラルを引きずりながら、ハルヒの方へ近寄った。
「ハルヒ、これを」
シャルは何かをハルヒへ渡したようだった。そういえば、彼は以前、シャルに耳飾りをもらったと言っていた。切なさが爆裂しそうなほど膨れ上がると同時に憂いの色を伴う不安までもが芽生える。
アヴラルは目に涙を浮かべつつ、一体何を渡したのかとシャルの背から顔を覗かせた。贈り物自体が羨ましいのではない。シャルが他者へ物を渡すという行為に、どうしてか取り残されたかのような焦りと寂しさを感じてしまうのだ。自分が抱く感情の温度の低さはどうしたことだろう。これが独占欲というものなのだろうかとアヴラルは狼狽の中で考えた。
「これは……?」
手渡されたものを見て、ハルヒが不思議そうな顔をした。
彼の掌に乗る、小さな菱形の石。黒にほど近い紫色をした石だ。璃核の晶だ、とアヴラルは悟った。一瞬、シャルが己の呪力を固めて取り出したのかと蒼白になったが、その石がやけに沈黙していることに気づき、早とちりしたと分かった。シャルの石ではないとすれば、それはガラフィーから取り出したという事実以外にない。
「守護石となるから、持っているといい」
シャルは詳しく説明しなかった。掌の石を、ハルヒは食い入るように見つめていた。
通常、璃核の晶は生者の肉体から取り出し精製する。死者からも取り出せぬことはないが、活動をやめた力は濁り、体中へ散って溶けてしまうために、わずかしか固められない。肉体の死によって石の力が格段に落ち、呪具としては殆ど使い物にならないのだ。石の色がひどく沈んでいるのは、死後に取り出したためだった。
ガラフィーを弔ったあと、シャルは璃核の晶を固めたのか。
誰のために。
ガラフィーのために?
それとも、繊麗という言葉が似合いそうなハルヒのためなのだろうか。
「価値があるものだよ。なくさぬようにね」
「はい、ありがとうございます」
ハルヒも深くたずねはせず、大事そうに石を握った。
シャルはその時、とても儚く見えるような、奇麗な笑い方をした。皮肉の仮面が取り外された自然な表情に見蕩れながらも、ずきりと大きく胸が痛んだ。そういう特別のような微笑が別の誰かに向けられたことに、目眩がするほど辛くなる。
「さて、行くか」
シャルはすぐにいつものような淡々とした口調に戻って、腰にしがみついているアヴラルを引きはがし、ぽんと軽く頭を撫でた。皆が驚いたようにシャルへ視線を向けた瞬間、アヴラルは一つの異質な気配を感知した。
怒りに満ちた負の気配だ。
今自分が胸に抱いている感情とよく似た、誰かの硬い気配。
その気配に感化されたのか、心に突き刺さる痛みをまるで八つ当たりでもするように魔力の目覚めへと変えてしまった。
「アヴラル!?」
覚醒する魔力を察したらしいシャルの声に泣きそうになりながらも、アヴラルは掌に意識を集中させて、外へ続く扉へと発する。
ジグマの魔力は、主に火炎系の行使を得意とする。他にも複数の能力を持つが、最も初歩的であり扱いやすいのが炎だった。人が起こす炎とは異なる。扉を焼いた炎は毒素を持つ。
舐め取るように、一瞬で扉が溶け落ちた。
魔力はなんて、暗い感情に呼応するのだろう。
「……ラシュ?」
キカが放心状態からすぐに立ち直り、怪訝そうな声を出した。
溶け落ちた扉の外に、呆気に取られた表情で立ち尽くすラシュの姿があった。胸の位置にまで持ち上げられている両手には鋭利な短剣が握られていた。アヴラルが察したのは、彼女が滲ませる殺意を秘めた気配だったのだ。
「どうしてここに来たんだ」
そう続けるキカの視線が、ラシュの短剣を捉えた。
「おい、まさかその剣を持って復讐しに来たとか言うなよ」
言い当てられて屈辱に感じたのか、ラシュがかっと頬を染めた。
「あ、アヴラル、今の、何……? アヴラルも呪術師なの」
状況を把握できていないリタルが驚きに目を見張ったまま、高い声を上げた。無邪気ともいえる問いを発したリタルの身を、ユージュが強張った顔で抱き寄せ、少しでもアヴラルから遠ざけようとする。呪術師であるユージュは、アヴラルの異質な力が通常の呪力によるものではないと気づいたらしい。
「この子については後回しだ。ラシュ、お前、兄さんに黙ってここへ来たんじゃないのか」
およそ警戒心に欠けた呑気な口調で、キカが訊ねた。実際、警戒するに足る危険な存在とは考えていないのだろう。またラシュ本人も、キカの判断に気づいたらしい。
「兄様なんて関係ないもの」
「あのなあ、何をしに来たか大体想像はつくが、やめとけ。それは逆恨みというものだ。シャルや俺に恥をかかされたと思っているんだろうが、お前の力じゃ復讐はかなわない」
子供に言い聞かせるような甘い声音だったが、口にされた内容はひどく辛辣なものに思えた。
「できるわ!」
「無理だって。兄さんの言うことをよく守り、大人しく帰れ」
「馬鹿にしないで!」
「いや、してないんだが」
ラシュは目を潤ませ、癇癪を起こしたように、手にしていた短剣をキカへ向かって投げつけた。キカが、うわ、と奇妙な声を上げつつ、短剣をよけた。
「どうして誰も皆、兄様ばかり持ち上げるのっ」
キカは首の後ろをかきつつ、困惑した様子でシャルの方へ視線を投げた。シャルは明らかに関わりたくないと意思表示して、アヴラルの頭に手を預けつつ素知らぬ顔をした。ハルヒの生存を確認できたため、ラシュに危害をくわえる気はないのだろう。
キカは少し恨めしそうな目をしたが、いきり立つラシュを宥めるためにか、一歩彼女の方へ寄った。
「兄様ばかり命令して! 私だって自分の行動くらい決められるわ」
「決めることは誰だってできるさ。その行動が引き起こした問題の責任を背負えるかどうかが重要だ」
「責任くらい、自分で!」
「できていないだろう。後始末は皆、兄さんが代わっていたんじゃないのか」
ラシュは一瞬口ごもったが、目に浮かぶ涙を怒りに変えるかのように、何度も首を振った。
「だって、何も教えてくれないから! 私の知らないうちに何でも決めて、口を挟むんですもの。なぜなのか教えてもくれないのに、制限ばかり押し付けられるなんて、嫌だわ。今回の市だって、ずっと私に秘密にしてたんだから」
「そりゃ、ラシュのためを思ってのことだろ。俺から見ればラシュは随分甘やかされているし、大事にされてるぜ」
わずかに気怠さを滲ませつつもキカは根気よく会話につき合っていた。しかし、キカの面倒そうな態度が、余計にラシュを追いつめ、意固地にさせているようだった。
「そんなこと頼んでないもの!」
「あのな」
気怠さが苛立ちに変化したらしいキカが声を低くした時、不意にリタルがユージュの束縛をとき、ラシュの方へ駆け寄った。リタルの唐突な行動に驚いたキカが口を噤み、一度シャルの方へ視線を向けた。
「分かる」
とリタルが断定の口調でラシュに言った。
「え……あなた、誰」
「あたしも、同じこと、思う」
リタルにいきなり腕をとられたラシュが、視線をさまよわせつつ狼狽えた。
「だって、全部のこと、あたしのためって言われたら、もう何も聞けなくなる。それって本当にあたしのため? 何一つ真実を教えてくれないのに、どこがあたしのためなの。何がどうなっているのか説明してくれたら、ちゃんと理解できるし、言われたことも素直に聞けるのに。たとえば、どんなに汚い事情があっても、醜い取引や企みが隠されていても、大事に思ってくれてることはちゃんと分かっているから嫌いになったりしないわ。時には反発するかもしれないけれど、あたしのためだというのなら適当に誤摩化したり突き放さないでほしいの。重要な役割を与えてほしいわけじゃなくて、ただ、こっちを見てほしいだけ。何も知らされず一人置き去りにされるのが、どんなに惨めで悲しいか――あなたも、そうなんだよね?」
呆然としていたラシュが肩の力を抜き、じいっとリタルを見つめた。
憑き物が落ちたかのように、ラシュから怒りが抜けている。
二人は少しの間、鏡の中にいる自分を覗くように見つめ合っていた。
「リタル」
ユージュがひどくおろおろとした様子で名を呼んだ。
夢から覚めたように、リタルがゆるりと視線を動かす。
「姉さん、あたし、そんなに子供じゃないんだから、姉さんが何かを隠そうとしていることくらい分かるわ。悪いこともしているの、知っているの。それが私を守るためだというのも分かる。だから、もう一人にしないで、ちゃんと、本当の声を聞かせて」
リタルは全身に力をためるように、背を凛と伸ばした。
「あたし、姉さんみたいに強い力はないわ。けれど、色んなこと教えてくれたら、姉さんがすごく疲れて帰ってきた時、心をこめて『おかえりなさい』って言えるわ」
その一言を言わせて、その一言を聞いて、とリタルは噛み締めるように呟いた。
心を貫かれたようにユージュが中途半端な姿勢で固まり、涙を浮かべるリタルをぼうっと見下ろした。ラシュは、ユージュの方へ視線を向けるリタルの横顔を、ひたすらに見つめていた。
「アヴラルのお姉さんも同罪よ」
リタルは厳しい声で言った。声音の強さに、断罪されたシャルよりもアヴラルがぎくりと飛び上がってしまう。
「アヴラルが何も知らないのって、お姉さんのせいなんだから。それで傷つくのはアヴラルよ。さっきも皆に、何も知らない子だって呆れた目で見られたでしょう。知ろうとするアヴラルの前から、何でも全部隠してしまうお姉さんが悪い!」
「あー…、だがな、お嬢さん。世の中には知らないことがいいってのも」
と愛想笑いを浮かべたキカの台詞を、リタルはきれいに叩き切った。
「どうしてそれを勝手に決めるの! あたしも、アヴラルも、この人も、馬鹿じゃないんだから!」
参った、というようにキカが天井を仰いだ。
「……そうよ。知らない方がいいということを兄様は知ってるのに、どうして私が知ってはいけないの。同じことを知りたいと、なぜ思ってはいけないの?」
リタルの手をぎゅっと握り返したラシュの言葉に思わずアヴラルも頷きかけて、シャルの視線に気がつき固まった。
「おい、大変だ。少年少女の大反乱だぞ」
キカがはっきりと面倒そうな気配を滲ませながら、シャルの方へ顔を向けた。シャルは考えを巡らせているような表情で、石化しかけのアヴラルを見続けている。
「アヴラル」
「はいっ」
思わず威勢よく返答してしまった。
「お前もそう思うのか。善意に満ちた清潔な話ではなくとも、知りたいと願うのかな」
アヴラルは大いに迷う。シャルが隠そうとする様々な事柄や本音について、正直に言えば、浅ましく掻き寄せてしまいたくなるほど知りたいと思う。胸に抱く感情を共有できたら、どれほど嬉しいか。別々の存在であるからこそ、一瞬だけでも想いを重ねたいという願いはより強くなるのだろう。その一方で、我が儘を言ってシャルを困惑させたくないという思いもあるのだ。
アヴラルはちらりと周囲の人々を眺めた。リタルとラシュがどこか不安そうな、それでいて何かを促すような目をして、アヴラルを見返していた。ああ、そうか、シャルの問いかけはアヴラルだけのものではなく、彼女達のこれからにも関わってしまうのだろう。
「……知りたい、です」
「そう」
思い切って心のままに答えてみたが、すぐに弱気になってしまう。
「あ、あの、でも、教えてもいい範囲でかまわないです」
つい、そう言い添えてしまったら、シャルに呆れたような顔をされてしまった。
「アヴラル!」
臆しちゃ駄目よ! とリタルが姉のような顔をしてアヴラルを睨んだ。
びくびくするアヴラルの側で、シャルが両手を背に回し、とんと軽く踵を打った。
「全てのことを教える気にはならない。たとえこちらから拒絶を受けたとしても、時には自分の行動をもって知ろうとする気概が必要だから。責任というのはそれを理解した時に身に付く」
「はい」
シャルはアヴラルだけに語るのでなく、リタル達へも聞かせるように視線を動かした。
キカが先程「少年少女の大反乱」と揶揄したように、きっとアヴラルやリタル達の訴えは、実に子供じみた主張でしかないのだろう。答えることすら馬鹿馬鹿しく億劫な、幼い願いに違いない。それでもシャルは軽んじず、厳しさを含みながらも説明をしてくれた。単に保護者の役目を果たそうと考えているのかもしれないが、真剣な思いに同じ真剣さで返してくれたのが嬉しい。
「しかしね、全てのことを包み隠すこともせぬようにしよう。たまには、誰かの導きによって物事の真相を知るというのも必要だろう」
「は、はいっ」
それはつまり、時々は質問を許してくれるという意味だろうか。
「そうだな、実際、こういった危機が再度降り掛からないとはいえない。危機感をもたせるためにも教えておこうかな」
不意にシャルが、ふむ、という表情をした。
「お前、先程奴隷とは何かと聞いたね」
「はい。……!?」
シャルが身を屈め、わたわたするアヴラルの耳に唇を寄せた。奴隷の種類について――もしアヴラルが奴隷として売られていた場合どういった扱いを受けたか――というのを、シャルは簡潔に耳打ちしてくれた。耳にかかる吐息がくすぐったく、甘く感じられて、困った。
「あーシャル、一体どういう説明をしているのか気になるぞ」
凝固するアヴラルを見て、キカがぽつりと告げた。
アヴラルの頭の中では今、シャルが説明してくれた言葉がぐるぐると渦を巻いている。だが、説明されても分からなかったため、意を決してシャルを見上げ、訊ねた。性奴とは何かと。すると全員の視線がアヴラルに集中した。
「確かに、人によってはまだ知らなくてもいいってこと、あるかも……」
しばらくの沈黙のあと、なぜかリタルが少し態度を改めた様子で、そう呟いた。
きょとんとするアヴラルの頭を、ぽんぽんとシャルが叩いた。なぜか慰められているような気がした。
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その後、ラシュは大人しく帰っていった。恐らくシャルは気がついていただろうが――ラシュを尾行していたらしい仲間の呪術師が顔を見せ、館主の元へ帰るよう彼女を促したのだった。
驚いたことに、シャルは呪術師たちに頭を下げられていた。シャルはいつものごとくぶっきらぼうに頷くだけだったが。
静けさが戻ったあと、シャルはやれやれという態度でアヴラルを担ぎ上げた。慌ててシャルの肩にしがみつきつつ、皆をちらちらと見る。
「こらシャル。どこへ行く。お前ね、このまましらを切ろうとしているだろう」
キカが扉の前に立ち、何も言わぬまま素早く出ていこうとしたシャルの邪魔をした。
「何が?」
シャルは不思議そうに訊ねた。
「やめとけ、今更無邪気な表情をしても騙されぬ。そもそも壮絶に似合っていないから」
なんて勇気のある発言だろう、とアヴラルはキカを見直しながらも、対等の会話が自然にできているところに羨望を抱く。
「さて、ゆっくりと説明してもらおうか。その子は何だ」
「子犬かな」
「態度について聞いているんじゃないぞ。本性は何かと問うている」
アヴラルは少し切なくなった。一瞬聞き逃しそうになったが、態度は子犬のようだとキカも同意しているのではと気づいたのだ。
「いいじゃない、何だって。キカには関係ないもの」
「そんな甘えた声を出すな、不気味でしかたがない。見ろ、寒気がして肌が粟立った」
気軽に冗談めいた声音を出すシャルを初めて見て、驚きと同時にまたしても焦りのような感情が芽生えた。
「とりあえず、全ては丸くおさまったでしょう。これで解散しよう」
アヴラルをきちんと抱き直したあと、シャルがにっこりと微笑んで皆を見回した。
「ちょっとちょっと、納得できないわよ。その子がさっき発した気配、普通じゃないわよ」
「アヴラルって呪術師なの?」
ユージュとリタルが寄り添いつつシャルに訊ねた。が、シャルはにこやかな笑みを消し、あからさまにつんっと顔を背けた。
「説明する義理はないね。私達の事情は、ユージュ達に無関係だ」
「あなたねえ、そういう言い方、人を傷つけるのよ」
「それは悪かった」
「全然悪いと思ってない!」
ユージュが眉間に皺を寄せた時、キカが溜息を落とした。
「シャルの軽口に惑わされてるぞ。こいつはこのまま話をひっかきまわして逃げるつもりなんだ、乗るなよ」
うっとユージュが口を噤み、シャルを見据えた。
「精霊の気配ではありませんね。どちらかといえば――大きな歪みの気配、魔の気では」
誰の言葉にも惑わされず、ラシスが静かな口調で真実を言い当てた。
皆が黙り込む中、シャルが吐息を落とした。表情に深刻さは見えなかったが、アヴラルを支える手に力が入り、それでシャルが緊張していることが伝わった。
「……魔?」
リタルが、意味が分からぬという顔をして聞き返した。
「俺も同感だな。端麗な容貌に誤摩化されたが、呪術師の力とは異なる圧力を感じた」
キカが不真面目な態度を改めて、厳しい目をアヴラルに注いだ。
「ま、待ってよ、やめて。そんなはずない! アヴラルは優しい子だもの、ひどいわ、魔だなんて!」
懸命に否定してくれるリタルに、切なさを感じる。
「だが、通常の魔とは違うのも分かる。人に対してこれほど執着し、懐く魔は珍しいね」
「くわえてこれほど人めいた魔も奇妙なことです」
グイレとラシスが交互に独白する口調で告げた。
「やめてったら! アヴラルをそんなふうに言わないで」
「お嬢さん、少し黙っていてくれるか。――シャル、ここで話しにくいなら場所を変えてもいい。俺に対して借りがあるだろう」
憤るリタルに冷淡な目を向けてキカが脅しのような言葉を口にした。
「……聞くわよ、あたしも。だって、ここにはもういられないし、あたし、シャルについていこうと思ってるし」
ユージュの宣言に、皆、驚いた顔をした。
「こうなった以上、モルハイでは暮らせないわ。かといって、頼れる場所なんてないし」
シャルの気配が重くなった気がする。
「駄目って言われても、ついてくからね」
シャルの視線に怖じ気づきつつも、ユージュはきっぱりと言った。